高病原性鳥インフルエンザ発生の状況と食品リスク (2022年2月12日)

豊福 肇


SFSS理事
内閣府食品安全委員会座長・農林水産省食料・農業・農村政策審議会家畜衛生部会委員・
日本学術会議会員・東京大学名誉教授・中央畜産会理事・家畜改良センター理事
眞鍋 昇

鳥インフルエンザの発生状況
 一昨年2020年夏にシベリアの営巣地のカモなどの水禽(すいきん)類で検出された鳥インフルエンザH5N8亜型ウイルスが、家禽(人間が飼っているニワトリ、ウズラ、シチメンチョウ、アヒルなど)に感染して、昨シーズン(2020~2021年)にはユーラシア大陸の西側(フランス共和国492件、ドイツ連邦共和国223件など)と東側(大韓民国116件など)で猛威をふるいました(H5N8亜型ウイルスの遺伝子を解析した結果、5つの遺伝子型があることが分かり、各々の病態が異なることが分かっています)。我が国では昨シーズン18県にわたる広範な地域で52事例が発生し(2年10カ月ぶりに、2020年11月5日に香川県で発生し、2021年3月13日の栃木県での発生まで頻発しました)、家畜伝染病予防法にもとづいて過去最大となる約987万羽(内訳は、卵を生産するために飼われている採卵鶏が約905万羽、鳥肉を生産する目的に肉養鶏が約82万羽でした)を殺処分しなくてはならない惨状を経験しました(これまでのシーズン最大殺処分羽数は約183万羽でしたので、約5倍ものニワトリを処分しました)[1]
 今シーズン(2021~2022年)も高病原性鳥インフルエンザH5N8亜型ウイルスとH5N1亜型ウイルスの感染が広がっています。2021年11月10日に秋田県で発生した後、鹿児島県、兵庫県、千葉県(アヒル)、埼玉県、広島県、青森県、愛媛県と全国にわたって主に13養鶏場(産卵鶏10養鶏場、肉養鶏2養鶏場、アヒル1農場)で発生し、2022年1月4日までに約83万羽が殺処分されています[2]
 昨シーズンには複数の100万羽を超える大規模な養鶏場で発生したため殺処分に手間取って多くの困難が生じたこと、昨シーズンも今シーズンも感染症防御に有効であると考えられてきたウインドウレス鶏舎(外部からの病原体の侵入を防ぐ目的で窓のない巨大な倉庫状の建物の中で家禽を飼養しています)でも発生したことなどが、養鶏業者や家畜防疫担当者に衝撃を与えています。従来からの飼養管理システム、防疫指針、飼養衛生管理基準などだけでは十分に鳥インフルエンザの発生を統御しきれない危機的状況となっています。2019年12月に中華人民共和国で発生したヒトの新型コロナウイルスの地球規模での蔓延状況をみると理解し易いと思いますが、地球規模で感染が広がる鳥インフルエンザでは感染防御について国際的に緊密な連携が欠かせません。日本が単独で対応できるものではなくなっており、初期に発生した国々との情報や対策などを共有して世界規模で統御することが必要です。

鳥インフルエンザに感染したニワトリの卵や肉の安全性
 我が国では、もしも養鶏場で鳥インフルエンザが発生した場合、家畜伝染病予防法に基づいて発生した養鶏場で飼っている全てのニワトリを殺処分し、焼却または埋却するとともに養鶏場中を消毒します(このような防疫措置は、国内で健康に生きている他のニワトリに鳥インフルエンザウイルスが感染することを防止するために実施するものです)。加えて、発生養鶏場の近隣の養鶏場で飼われているニワトリや生産された卵の移動は禁止されますので、鳥インフルエンザウイルスで汚染された鳥肉や卵が流通して消費者の口に入ることはあり得ません。万が一、鳥インフルエンザウイルスで汚染された鳥肉や卵を食べることがあったとしても、ヒトに感染することはありませんから、我が国で生産された鳥肉や卵は安全です[3]
 鳥インフルエンザウイルスは加熱(世界保健機関・WHOの食中毒防止のための加熱条件は、中心部70℃です)すれば不活化して感染性がなくなります。食品中にウイルスがあったとしても、食品を十分に加熱して食べれば感染の心配はありません(食品全体が70℃以上になるように加熱した場合、鳥肉の場合はピンク色の部分がなくなり、卵は黄身も白身も固まります)。日本国内では、卵を生で食べることを前提にして生産・流通されていますが、不安な方や体調の悪い方は、加熱することをお薦めします(日本では、鳥肉の生食によるカンピロバクター属菌やサルモネラ属菌などの細菌による食中毒が多発しているので、生肉や加熱不十分な鶏肉を食べてはいけません)。

鳥インフルエンザに感染する可能性
 これまで日本で発生した鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染したことは報告されていません。しかし、ベトナム社会主義共和国などの海外では、H5N1型ウイルスが生きた鳥を扱う市場(ライブマーケット)の生きた家禽やペットの小鳥などからヒトに直接感染したことが疑われる事例が報告されています[3]。WHOによると2003年~2019年までの約16年間の世界の累積患者数は860人でうち死亡数が454人(約53%)であったとのことです。上述のように日本では、鳥インフルエンザウイルスに感染した家禽の処分や施設の消毒などを徹底的に行っていますから、ヒトが感染する可能性はほとんどありません。

参考文献
1)農林水産省:高病原性鳥インフルエンザの発生状況について(2020年~2021年)・
  https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/eisei/kakin/77/attach/pdf/index-1.pdf

2)農林水産省:令和3年度鳥インフルエンザに関する情報について・
  https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/r3_hpai_kokunai.html

3)農林水産省:鳥インフルエンザについて知りたい方へ・
  https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/know.html

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