商品コンセプト実現と安全・安心 (2017年5月9日)

阿紀 雅敏

元カルビー株式会社上級常務執行役員
NPO法人食の安全と安心を科学する会(SFSS) 理事

阿紀 雅敏

 いきなりクルマの話で恐縮だが個人が自家用車を購入する際に考えることは、価格、燃費、外観、走行性、居住性、ライフスタイルとの合致などの商品コンセプト関連と安全性を考える。勿論クルマである以上命にも関わる安全が大前提であるが、我々はメーカーを信頼して安全性はクルマの選択の優先順位の上位をしめていない。

 食品の場合でも安全・安心は当たり前であるが、商品コンセプト実現と安全・安心は密接に関係していることを、カルビー(株)での経験をもとに書かせていただく。カルビーの「かっぱえびせん」は今年で発売後53年となるが、一貫して原料は鮮度の良い生エビを使用している。昔「やめられない、とまらないかっぱえびせん」というテレビCFがあったが、このおいしさは鮮度の良い生エビを使用したからこそ可能であった。生エビを丸ごと使用することにより独特の味、香り、食感を実現したが、原料エビの頭部は劣化しやすい。また漁獲されたエビは貝殻や海藻が混入しているので選別が必要である。エビ香料や乾燥エビ粉末を使用すれば異物混入のリスクは大幅に減少するが商品として53年売れなかっただろう。安全・安心を保証する活動は表に出ないがロングラン商品を支えている。

 ポテトチップスの場合も同様で、ジャガイモを薄く切ってフライするだけの単純な工程であるが故に前工程であるジャガイモ品種選択、栽培、貯蔵が商品コンセプトの実現と安全・安心に大きく関わってくる。基幹商品のポテトチップスは42年前の発売以来、商品コンセプト「パリッと新鮮」の実現のために活動している。

 ポテトチップスの美味しさは外観(美味しそうな色、適度な大きさ)、パリッとした食感、適度な塩味、香ばしい香りであるが、秋に収穫したジャガイモは貯蔵中呼吸するので澱粉が糖に変化してポテトチップスが焦げる。フライ温度を低くすると焦げないがパリッとしない。貯蔵温度を上げると糖分は増えないが芽が出る。工場で芽は取るが取りきれない芽がフライされると異物となってクレームとなる。解決の為に個別にジャガイモ生産者の栽培技術を向上し、肥料や農薬散布履歴も含めたトレイサビリティの完成に行きついた。(図参照)

 「新鮮」についてはフライ技術、包装材料、包装技術、賞味期限研究などハードに目が行くが、味の多様化による商品プロモーションを行い、店頭の回転を上げることも重要である。他方、味の多様化はアレルゲンのコンタミネーションのリスクを増大させた。生産ラインの見直し、生産技術(特に清掃)の改善によりアレルゲンコンタミネーションのリスクを減少させ、商品の表示ミス低減の工夫もあり、味の多様化に対応できた。その結果工場の稼働率が向上し生産コストが下がった。

 商品コンセプトの実現は上述の「コゲと発芽」のように二律背反の問題があるように考えられるが、サプライチェーン全体で解決すると原料から製品までのトレイサビリティが出来上がり安全・安心につなげることができる。

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