食のリスクコミュニケーション・フォーラム2016 第2回 (2016.6.26)より
危機管理と知る権利について-食品リスクと放射線リスクの違いと共通点- (2016年10月27日) 

関澤 純
NPO法人食品保健科学情報交流協議会理事長
関澤 純


食中毒と糖尿病による死亡率の推移

 地球上の現代社会に生存し暮らしているわれわれは多種多様なリスクに囲まれている。災害大国のわが国で、地震、台風、津波、堤防決壊など自然災害のニュースが繰り返し報道される一方、気づかれにくい自然リスクの一つとして宇宙線放射を毎日浴びている。戦争、財政破綻、疾病・障害や高齢化など社会と個人の人間活動に強く関係するリスクもある。これらリスクの起因と態様は異なり、適切に対処する上で、リスクの特性、影響の経路や在り方について、科学的で具体的な理解が前提となる。たとえば、わが国における健康リスクの最大要因であるがんの予防について、国立がんセンター予防研究グループは日本で発生したがんの特定のリスク要因への暴露の寄与割合を検討し、男女ともに喫煙と感染性要因(ウイルス)が1位と2位の寄与要因と指摘した。最近のリスク評価の研究から化学物質による動物発がん試験結果は必ずしも人に適用できず、キーとなるイベントの作用様式の定量的な異同の検討の重要性が指摘されている。
食品の安全・安心に市民の強い関心があり、ここ数十年さまざまなリスク対応が講じられ、有害汚染物や病原菌による健康リスクは大幅に軽減されてきたが、他方で偏った食生活や生活習慣を起因とする糖尿病の死亡率は近年急上昇している(図)。食品はすべての人にとり生命を支えるため欠かせないが、食事内容・摂取方法・量は個人の自由選択に任されている。このような自由度を享受できる背景には、多くの人の見えないところで安全な食品を供給するための強固な社会的、技術的な枠組みが構築されているが、新たな疾病リスクの上昇を防ぐ上では、食と健康の関係の適切な理解が重要になってきている。
 このように危機管理と知る権利の面から見ると、「目に見えるリスク」と「見えにくいリスク」、「回避手段が明確でリスクを減らすことが個人でも可能である自然災害や食品安全のリスク」と、「深刻かつ重大だが個人の力では回避困難な戦争や経済危機リスク」がある。放射線リスクについては、自然界で浴びる放射線リスクは減らせないが、原発事故のリスクは為政者と事業体、関係専門家が管理すべきリスクである。われわれはすべてのリスク事象に関し詳細な知識は持つことはできないが、それぞれへの適切な関心と理解を持ち、問題に即して可能な対応をすべきと考える。個人として対応が困難な事故原発の廃炉や高レベル放射性廃棄物の処分、経済危機リスクなどの危機管理については為政者や専門家に任せておけば良いというものでなく、十分かつ分かりやすい情報が提供された上で、国民全体の危機管理問題として考え意見を表明ししかるべき解決方向を実現させる重要課題だろう。
 リスクコミュニケーションでは、基準数値へのこだわりや検査結果の情報公開と受け取り側の認知バイアスの課題などが指摘されているが、われわれを取り巻く多様で複雑なリスク全般について各自が適切な関心を持ち基本的な理解を進め個人と社会が、より良く効果的な危機管理を実現させるために必須のプロセスと考えるべきだろう。リスクコミュニケーションでは、個々人のおかれた立場と状況に配慮した説明と適切な対応策および、基準と検査データの大小関係だけに還元できない多様なリスク要因の特性に対応した具体的な判断の目安の提示とその適切な理解が求められる。

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