東京大学食の安全研究センター 第29回サイエンスカフェ(2017.10.12) 取材報告 (2017年11月19日)

関崎 勉

~ジビエの食中毒リスクとその対策~


関崎 勉 先生(センター長・教授)

第29回サイエンスカフェ

 東京大学食の安全研究センター主催で2012年から続けてこられた一般市民むけのサイエンスコミュニケーションの取り組み「サイエンスカフェ」は今回で第29回を迎え、昨今流行となりつつある「ジビエ」をテーマに東京大学農学部フードサイエンス棟のcafé agri101にて開催された。今回の講師は本研究センターのセンター長で、食品病原微生物学研究室の教授でもある関崎勉教授だった。腸管出血性大腸菌O157・サルモネラなど食中毒細菌研究の第一人者から直に食中毒リスクについて聴講できるとあって、約20名の一般市民が集結した。

 本セミナーを取材して一番驚いたことは、講演途中にもかかわらず参加者が次々と質問を講師にぶつけること。おそらく講演時間90分のうち半分近くが質疑応答だったように思う。まさに双方向のリスクコミュニケーション=「ザ・リスコミ」であり、参加者のリスク・リテラシーは格段に向上したのではないか。6年間このようなリスコミの取り組みを地道に続けておられることに敬意を表したい。

 「ジビエ」とはフランス語で「狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉」を意味する言葉。ヨーロッパでは貴族の伝統料理であり、日本国内でも最近フレンチ料理・創作料理などの食材としてジビエが注目されている。「ジビエ料理」という響きが自然でおしゃれなイメージであることに加えて、日本の森林における野生動物の棲息数が急激に伸びて農作物の鳥獣被害が深刻な状況にあり、野生動物を捕獲することが一石二鳥ということも「ジビエ」の後押しになっているとのこと。ただこの「ジビエ」にも食中毒の重大なリスクがある、との関崎先生のご指摘に、参加者の皆さんは眉をひそめることとなった。

 第一に、牛・豚・鶏など一般家畜が管理された飼育環境でヒトが与えた飼料を食べているのに対して、鹿・猪・キジ・カモなどのジビエは全くの自然環境のなか衛生管理されていない食べもの(何に汚染されているか不明)を食べていること。第二に、一般家畜が必ず指定の食肉処理場/食鳥処理場においてと殺され、獣医師による目視/科学的検査を合格しなければ市場に出ないよう、法令で義務付けられているのに対して、ジビエはこれらが義務付けられていないとのこと。
実際に、ジビエが原因で発生した人獣共通感染症の事例が1980年代以降でも十数例起こっており、2003年には鳥取で猪の肝臓を生で食した方がE型肝炎で死亡したという事故も発生している。生レバーの場合、ジビエでなくとも豚においてもE型肝炎ウイルスに感染するリスクがあり、重篤な肝障害を起こせば生命の危険に遭遇するので、平成27年6月から豚の肉や内臓(レバーを含む)を生食用として販売・提供することは法令により禁止されている。

第29回サイエンスカフェ

 家畜や野生動物における食中毒病原体の保有率はさまざまなのだが、上述のE型肝炎ウイルスの場合、豚・猪・鹿などで高く、腸管出血性大腸菌は牛・羊・山羊で、カンピロバクターは鶏・カモなど鳥類で高いことが知られている。関崎先生より、トリヒナ、腸管出血性大腸菌、トキソプラズマ、カンピロバクター、サルモネラ、豚レンサ球菌などについて特徴を解説いただいたのち、これらに起因する食中毒をどう予防していくべきか、その対策をご教授いただいた。

 平成26年に厚生労働省より「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」が通知された。それを受けて一般社団法人日本ジビエ振興協会など業界も衛生管理基準・品質管理基準の策定を進めているとのこと。本セミナーにおいて学んだジビエの食中毒リスクについて低減化していく体制づくりが社会全体を通じて必要と強く感じた。

 なお、東京大学食の安全研究センターならびに同センター主催の「サイエンスカフェ」について詳しく知りたい方は、以下のホームページをご参照ください:

◎東京大学大学院農学生命科学研究科 食の安全研究センターの公式サイト: http://www.frc.a.u-tokyo.ac.jp/

◎東京大学食の安全研究センター 活動の足跡(サイエンスカフェ): http://www.frc.a.u-tokyo.ac.jp/activities/science-cafe/

(取材・文責:山崎 毅、写真:miruhana)

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