HACCP認証の効果 (2019年7月28日)

阿紀雅敏


SFSS副理事長・元カルビー(株)上級常務執行役員
阿紀雅敏

 昨年6月の食品衛生法改正により、食品事業者は遅くとも2021年前半までにはHACCP方式による衛生管理が義務化されました。その背景は①日本の食料は海外からの輸入に大きく依存しており、これまでの水際による監視から”HACCPという仕組み”として安全の確保に転換しました。②東京オリンピック・パラリンピックにおける選手村への食材調達をはじめ、として、食品安全を国際基準に合わせる必要があります。逆にこの機会に日本の食品を海外にアピールし、輸出につなげるチャンスでもあります。③更にノロウイルス等による食中毒は依然として多いのが現状です。キザミノリを使用した食品の事案や、腸管出血性大腸菌O157による広域的な事案も発生しました。ただ来年のオリンピック・パラリンピック開催時期に食中毒は避けたいですね。関係の皆様はご苦労のことと察します。

 HACCPは国際的統一ルールによる、第3者認証が特徴です。食品事業者は一般衛生管理の確実な実施の上に、HACCPによる7原則(12手順)を実施します。一般衛生管理は食品安全を確保する上で必ず実施しなければなりません。食中毒事故の多くは一般衛生管理の不備が原因です。冷蔵・冷凍庫内の温度管理や作業者の手洗いや器具の洗浄、交差汚染防止などの活動です。また毛髪、虫などの異物が製品に混入することを防止するためには一般衛生管理が重要で、食品安全活動の80%が一般衛生管理と言われています。HACCP7原則(12手順)の詳細は省略しますが、自社にあった認証を選択して実施すれば良いと考えます。厚生労働省が示しているA基準はHACCP7原則(12手順)を完全実施します。業界団体で手引書が作成されています。中、大型工場が対象です。B基準はフードサービス、小規模事業者が対象です。日本食品衛生協会が作成した「小規模な飲食事業者向けHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」が参考になります。東京都の「2019食品衛生管理ファイル」は直ぐに使用できる形式になっていますので参考にして下さい。これらA基準、B基準ともに窓口は保健所です。

 更にレベルを上げてISO22000、FSSC22000や日本発のJFS-C規格(食品安全マネジメント協会 図参照)は国際認証されていますので、取得すれば製品輸出が可能です。窓口は各認証機関です。
 以上の様に一定のルールに基づいた第3者認証を受けることは、次のような効果があります。リスクの低減とコンプライアンスの推進は言うまでもありませんが、これまで行ってきた品質の作り込みを社内で”見える化”することが出来ます。当初HACCP7原則(12手順)は難しく感じるかもしれませんが、HACCPチームが現場で議論しながら手順書を作成すると思わぬところで製造現場の”技術の伝承やコツの科学化”が行われます。またゾーニング、動線、交差汚染対策の検討過程で”作業の無駄”が発見されることもありそうです。現場で喧々諤々やることが重要です。HACCPはお金がかかると良くいわれますが、HACCPは仕組みですので、お金は最小限で対応は可能です。逆に改善活動に繋げることでジワジワコストダウンにつながります。第3者認証されることによってお客様の信頼を得ることは言うまでもありません。まずは自社に合ったレベルで着手し、徐々にレベルを上げれば良いと考えます。

 筆者は以前、中国の取引先と仕事をしたことがありますが、その会社はFSSC22000を取得し、衛生面でもしっかりしていましたが、農水産加工会社ゆえ原料由来の異物混入対策が重要課題でした。ある件で昔懐かしい”特性要因図”を現場の班長クラスと通訳を交え作成しました。私が事前に予想しなかった要因がみつかり納得するとともに、従業員教育効果があったと経営トップから感謝されました。これはCCPではありませんでしたが、HACCPが常に現場の活動であることを再認識しました。教育訓練は手洗いの徹底から始まる個人衛生が中心になりますが、上述のような現場の問題発見の体験は現場力の向上に役立ちます。

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 HACCPを経営の視点から見ますと、①第3者認証により、コンプライアンス推進が一層明確になります。これには経営トップによる全社へのメッセージの発信が重要であることは言うまでもありません。②ISO9001(特に海外)で対外的アピールにのみ留まっている例がありますが、第3者機関や経営トップによるマネジメントレビューなどにより不具合が発見され(Check)、それを受けて再発防止の為の是正措置、不適合への対応(Action)を行います。年間計画でC(Check)→A(Action)→P(Plan)→D(Do)のサイクルを回すことを通して継続的改善を行い、企業価値の向上に繋げます。

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