デルタ株の登場で必須となった強めの感染リスク低減策~マイクロ飛沫感染への意識が重要~

[2021年8月23日月曜日]

 ”リスクの伝道師”SFSSの山崎です。本ブログではリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方について、毎回議論をしておりますが、今回はデルタ株の登場で変わる新型コロナ感染症(COVID-19)のリスク対策の在り方について議論したいと思います。まずは、従来コロナとデルタ株の感染形態の特徴とともにワクチン接種によるリスク低減について、イラストでわかりやすく解説された長野県茅野市の医師:玉井道裕先生の記事を、以下のサイトでご一読いただきたい:

 ◎コロナ・デルタ株 医師のイラストが話題
  日テレNEWS24 2021年8月20日
   https://www.news24.jp/articles/2021/08/20/07926883.html

 説明が難しい新型コロナウイルス感染症の従来株(”元祖コロナ”)と感染力が強く変異したデルタ株の「感染」・「発症」・「重症化」・「死亡リスク」の違いを、手書きイラストでわかりやすく解説されており、SNSを介して若い方々にも拡散され、優れたリスコミだと思う。言うまでもなく、イラストに示されている数値は、現時点で玉井先生が確認された文献情報に基づくものであり、刻一刻とデータは変わっていくはずなので、1か月後には賞味期限となって数字が改善してほしいものだ。

 本記事に玉井先生のコメントも紹介されており、「ウイルスは日に日に進化しており、感染力が強くなったデルタ株が蔓延しているものの、我々はみな新型コロナに感染しない方法を知っており、あとはどれだけしっかり行えるか」ということに尽きるだろう。これこそ、今回筆者が言いたかったことだ。

 Go Toトラベル・キャンペーンも東京オリパラも、やはりやらないほうがよかったじゃないかとのご指摘をいただくが、まったくそうは思わない。これらのキャンペーンやイベントにより、大きなクラスターが起こったとか、感染拡大の原因になったという明確な因果関係を示したエビデンスは、一体どこにあるのかと伺いたい。移動/観光やイベントを行政が推進することで、感染対策をゆるめてよいという誤ったメッセージを国民にむけて出していることになる、などと指摘するコメンテータもいるようだが、そのような根拠もどこにあるのだろうか。観光業者/スポーツイベント関係者にしても、参加している国民にしても、そんなことで感染対策をゆるめるほどリスクリテラシーが低いとは思えない。

 イギリスではサッカーイベント(欧州選手権)のファンが、マスクなしで密集・密接したために感染拡大を引き起こしたじゃないかとのご指摘もありそうだが、日本国民の感染リスク対策との違いは鮮明であり、ワクチン接種済みでも感染してしまう数%の市民にも、この機会に感染して、抗体を十分保有してもらおうという、英国政府のかなり乱暴な公共政策だったのではないか。このようなイベント事例は、まじめな日本国民には全く適用できない実証実験だろう。

 本ブログでこれまで何度も述べてきたことだが、感染リスク対策が十分に施されている事業者と市民が観光/イベントに参加しても、感染拡大要因になるリスクは非常に小さいと評価されるため、安全と判断してよい=クラスターは起こらないということだ。「ではなぜいま、感染拡大が止まらないの?」と思われるかもしれないが、それは感染リスク対策が甘い方々が感染源となって感染を広げてしまっている=感染リスクが許容範囲を超えて安全ではないスポットが市中にあるからに過ぎない。

 この感染リスク対策が甘い方々とは、リスク認知バイアス、とくに”正常性バイアス”に陥っている方々だ。すなわち、リスクの定義が「将来の危うさ加減」であり、いま危険という意味ではない、ということが理解できていないことにより起こるのだ。これまで感染しなかった(=危険はなかった)のだから、まさか自分が感染するはずがない、まわりの友人が誰も感染していないのだから大丈夫(東京ですら1日の新規感染者数は1000人に1人にも達していないのだから、事故に遭う確率は低い)と、自分のおかれている高い感染リスク状況を過小評価してしまうと、運悪く感染者が近くにいた場合に、容易に事故に遭うわけだ。

 いやいや、それでも1000人に1人程度の確率だから、事故に遭ったら運が悪かったとあきらめるしかないと思われるかもしれないが、それは甘い考え方であろう。なぜなら、1000人のうち950人は感染リスク対策がしっかりできている市民と考えると、感染対策ができていないハイリスクの方々は50人程度に1人となり、そのまま感染対策が甘い状況を続けていると、これから1―2か月のうちには事故に当たる可能性が高いという試算もできるからだ。

 筆者は、地震・津波・豪雨災害・土砂災害など防災の観点から作成されているハザードマップの考え方を感染症にも応用し、新型コロナ感染症のリスクが高いエリアと低いエリアを示すことで、市民がリスク回避できるよう、ハザードマップを自治体が作成すべきと考えている。本来、自治体としては市民に危ないエリアにいることを認識してもらって、早く安全なエリアに避難してもらいたいのだが、管轄区域内で感染リスクが高い店舗はここですよ・・というハザードマップはさすがに作れないだろう。

 だからこそ、福井県や山梨県がやってきたように、感染リスク対策がしっかりできている店舗に市民をナビゲートするようなハザードマップが有用ということだ。最近、山梨県も福井県も若干新規感染者数が増えてきたのは、やはりデルタ株の登場により、これまで感染リスク対策が万全と思われていた店舗でも、ほころびが出始めているのではないか。これもまた”正常性バイアス”の影響で、これまでクラスターが発生していなかったからリスクが十分低いはずと思っていたが、デルタ株の登場でさらにリスクを下げる必要あり、ということではないか。

 やはり、デルタ株の感染力が強いということで、従来株に比べてより強めの感染リスク低減策が必要とすると、具体的にどのあたりを改善すべきなのか考えなくてはならない。その意味で、市民ができるだけローリスク・エリアに逃避するための自分たちでできる感染リスク対策を、以下のハザードマップ作成の手引き図にまとめたのでご参考としていただきたい:

2108_fig.jpg

 筆者は、従来株に対する感染リスク低減策として、マスク着用・手洗い・消毒に加えてワクチン接種で十分であろうというリスコミをこれまで展開してきたが、デルタ株による感染拡大を受けて、デパ地下従業員の方々のクラスターをみるにつけ、さらに強めの赤字の項目にも今後は留意する必要がありそうだ。このハザードマップ手引図を作成して気づいた点は、もしこの新型コロナに関するハイリスク・エリアとローリスク・エリアが市中で別々の生活圏を形成しているとすると、ローリスク・エリアでいくらワクチン接種が進んだとしても、残念ながら「集団免疫」は起こらないのではないか(すなわち、いまの感染拡大はハイリスク・エリアを中心に容易に終息しない?)ということだ。

 以上、今回のブログでは、デルタ株の感染拡大がなかなか抑えられない状況で、必要と考えられるリスク低減策の在り方について考察しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(非会員は有料です)。

 ◎SFSS食のリスクコミュニケーション・フォーラム2021(4回シリーズ)
  第3回テーマ 『学校給食のリスコミのありかた』
  第3回 講演要旨まとめ(PDF/236KB)

 ◎SFSS食の安全と安心フォーラム㉑
  『食物アレルギーのリスク低減を目指して』 開催速報
   http://www.nposfss.com/cat9/sfss_forum21.html

【文責:山崎 毅 info@nposfss.com

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