『中国産食品が危ない!』という短絡的結論に要注意

[2014年8月5日火曜日]

 先月中国のTV局が潜入取材で明らかにしたと言われる上海福喜食品の使用期限切れ鶏肉の問題に関して、予想通り(?)先週発売の週刊誌に記事が掲載されたようだ。すべての記事を読み切ったわけではないが、少なくとも筆者が目を通した週刊誌の記事は、おおむね「中国産食品はやっぱり危ない!」という趣旨のものであった。

 非常に残念なのは、これらの報道が「中国産食品は安全性に問題があるので、消費者は避けるべきだ」という論調であったことだ。実際は、こういった食品衛生事故事例は、世界中で起こっており、中国に限った問題ではないことは、厚生労働省が公開している輸入食品違反事例を見てもおわかりいただけるはずである。

 今回の事故は、上海福喜食品という特定の加工食品委託製造会社での製造現場の管理が不行き届きだったことであり、中国産食品がすべて安全性に問題があるかのような結論になっている記事は、明らかに不安を煽動している。早速、筆者が考案した『不安煽動指数(Aoring Index)』を、今回の中国産食品をテーマにした週刊誌記事について計算してみた:

  1. 恐ろしさ因子(重篤性) ⇒中国は「恐ろしい汚染食品が横行」と強調:○
  2. 災害規模因子 ⇒「中国産食品を大量に輸入」と強調:○
  3. 未知性因子 ⇒上海福喜食品以外も何をやっているか不明と強調:○
  4. 情報拡散度因子 ⇒全国版週刊誌:○
  5. 不安煽動指数

    (Aoring Index)

    情報発信の妥当性

    2以下

    情報発信問題なし

    3~4

    情報修正余地あり

    5~6

    要情報修正

    7以上

    情報発信中止すべし

  6. 管理基準厳格度因子 ⇒原産地表示は生鮮食品のみで冷静な基準:×
  7. 発信者不誠実度因子 ⇒中国産食品はすべて危ないとの結論ありき:○
  8. 引用元信頼度利用因子 ⇒大学研究者や食品問題評論家のコメントを引用:○
  9. 数値比較不在因子 ⇒健康被害が起こる程度のリスクかどうかの記述なし:○
  10. エセ科学因子 ⇒中国産食品の事故に関する記事でエセ科学とは言えない:×
  11. 『一事が万事』因子 ⇒特定の食品事故を報道し、ほかもすべてやっているに違いないとの短絡的な結論で、典型的な『一事が万事』の記事:○

 以上、Aoring Indexは8個該当したので、これらの記事は必要以上に不安を煽っており、「情報発信中止すべし」との判定結果になった。特に今回の週刊誌記事は、10番目の『一事が万事』因子に該当する典型的なパターンであり、「上海の工場で食品事故」⇒「中国産食品は避けるべき」との短絡的結論が科学報道のレベルの低さを物語っている。

 もしこの記事の結論が正しいとすると、たとえばバンコクで食品衛生違反事例があれば、タイ産の輸入食品も避けないといけないし、リオで食中毒が起こればブラジル産の輸入食品も避けないといけないことになる。昨年末に群馬の工場で食品テロが起こったが、そうなると国産の食品もすべて避けるのか?日本の消費者はいったい何を食べればよいのか?

 原産地情報をもってリスクを判断し、食品を選択することに科学的合理性がないことは明らかだ。グローバルな視点で考えると、輸入食品に頼らざるを得ない日本人は、そろそろ原産地情報に振り回される消費者を卒業し、食品を特定のブランドとしてとらえ、選別する消費者になることをお薦めしたい。

 三河産のウナギや魚沼産のコシヒカリも、消費者は原産地というより食品ブランドとして地名をとらえているはずである。だからこそ食品のリスクに関しても、原産地というよりは特定の食品ブランドとその製造品質管理の公開情報や実績をひも付けして評価し、食品選択の基準とすべきであろう。

 では、今回のような事故が起こったときに、逆に食品企業はどのような情報を消費者にむけて公開すべきなのだろうか?筆者が東京大学食の安全研究センターで実施した食のリスクコミュニケーションに関する共同研究の結果として、以下の消費者インターネット調査のデータをご紹介したい:

food.jpg

 製造現場でのモラルの低下を抑えていくことは食品企業にとって喫緊の課題であり、それは中国だけでの問題ではない。今回の事故のようにOEMで加工食品の製造を委託する場合には、いろいろな企業からの委託を受けているため、ひとつの委託企業から日本人を派遣して常時監視するというわけにもいかない。結局トレーサビリティの問題は、委託を受けた食品加工企業自体の自浄作用や社員教育を促すしかないように思う。

 SFSSでは、フードディフェンス対策も含めて、食品のリスク管理やリスコミの手法についても、コンサルティングや学術啓発講演のサービスを提供しております。また、8月31日(日)に「食のリスクコミュニケーション・フォーラム2014 ~食の安心につながるリスコミを議論する~@東大農学部」4回シリーズの第3回を開催し、リスコミのあり方をさらに議論しますので、ふるってご参加ください。

 本フォーラムの詳細ならびに事前参加登録はこちらより
⇒ http://www.nposfss.com/miniforum/

(文責:山崎 毅)

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