[2021年10月27日水曜日]
“リスクの伝道師”SFSSの山崎です。本ブログではリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方について、毎回議論をしておりますが、今回はリスクの大小をイメージするのに重要な原理:『リスクのトレードオフ』について理解するために、『リスクの天秤』というリスコミツールを考案しましたので、ご紹介したいと思います。このリスコミツールは、小・中・高等学校/大学におけるリスク教育だけでなく、大人の市民向けセミナーにおいても使用可能ですので、教育関係者の皆様は応用をご検討ください。
なお、生徒さん/学生さんたちが楽しくリスクを学んでいただくため、新たなキャラクター:『リスクン』と『リスコミ姉妹』が登場しますので、今後ご愛顧ください:
「リスクの天秤」の応用例は、消費者市民がリスク認知バイアスに陥りがちなハザードとして、「食品添加物」、「ゲノム編集食品」、「新型コロナワクチン」に関するシナリオを作成したので、以下をご参照いただきたい:
①「リスクの天秤」 食品添加物編
以上が、「リスクの天秤」を使って、「リスクのトレードオフ」によるリスク認知バイアスが生じている消費者に対して、リスクの大小を正しく理解してもらうためのリスコミの実例である。「リスクのトレードオフ」とは、実際は無視できる程度の小さなリスクを恐れて回避することで、より大きなリスクに遭遇して事故にあうようなケースのことだ。本ケースでも、リスク評価&リスク管理がしっかりされて、極めて安全性の高い食品添加物を適正に使用しなかったことで、食中毒による死亡事故が起きる、すなわちリスクが思いのほか大きかったという事故事例を紹介している。
実際に、毎年食品の微生物汚染による食中毒が多発しており、保存料・日持ち向上剤・殺菌料などの食品添加物を適正に使用することで、食中毒リスクをかなり抑えられている反面、食品添加物自体による健康被害は、おそらくここ50年起こっていないものと思う。食品添加物による健康被害が発生しないのは至極当然のことであり、ごくごく微量しか配合できない使用基準のもと、人体へのリスクが許容範囲内=「安全」と専門家が太鼓判を押しているからなのだ。次に、この「リスクの天秤」を昨今市場に登場したばかりの「ゲノム編集食品」のリスコミに応用した事例を以下にご紹介しよう:
②「リスクの天秤」ゲノム編集食品編
なお、食品添加物や農薬のように、安全性を確認するためには動物を使った長期毒性試験をするべきで、それを実施していないなら「安全性を確認済み」とは言えないのではないか、と疑問に思う方もおられるかもしれない。しかし、本ゲノム編集食品中に毒性を評価すべきハザード(特定の化学物質)が従来品種と比較して明確に出現していなければ、動物の生命を犠牲にした長期毒性試験自体が倫理的に認められないのは当然だ。
今回市場に初登場したゲノム編集トマトは、GABAという機能性関与成分の量が従来のトマトより有意に高くなるとのことなので、実際にヒトでのランダム化比較試験で血圧やストレスに対する機能性が認められるようであれば、生活習慣病のリスク低減に働く、すなわち「リスクのてんびん」でリスクが小さい方に傾く可能性も出てくることを期待したい。最後に、皆が気になる「新型コロナワクチン」の応用例だ。
③「リスクの天秤」新型コロナワクチン編
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の一番こわいところは、ワクチン未接種で感染すると死亡率が高い(100人に2人が亡くなる)ことではないかと思う。その意味でもワクチン接種により重症化予防・死亡リスク低減効果が大きいことは重要だ。今後もし有効な治療薬がいろいろと登場すれば、死亡リスクも下がるものと思うので、そうなれば「コロナ感染しても恐るるに足らず」となり、ワクチンも打たなくてよくなるかもしれない。
以上、今回のブログでは、「リスクの天秤」を使って、リスクの大小を理解してもらうリスコミ手法について、ご紹介しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(非会員は有料です)。
◎SFSS食のリスクコミュニケーション・フォーラム2021(4回シリーズ) 開催案内
第4回 『惣菜の衛生管理に関するリスクコミュニケーション』(10/31)
http://www.nposfss.com/riscom2021/index.html
第1回:『ゲノム編集食品のリスコミのあり方』 (4/25) 開催速報
http://www.nposfss.com/cat9/riscom2021_01.html
第2回:『残留農薬のリスコミのあり方』 (6/20) 開催速報
http://www.nposfss.com/cat9/riscom2021_02.html
第3回:『学校給食のリスコミのあり方』 (8/29) 開催速報
http://www.nposfss.com/cat9/riscom2021_03.html
◎SFSS食の安全と安心フォーラム㉑ (7/11)
『食物アレルギーのリスク低減を目指して』 開催速報
http://www.nposfss.com/cat9/sfss_forum21.html
【文責:山崎 毅 info@nposfss.com】