新たな『機能性表示食品』は消費者市民社会の救世主となるか

[2015年4月11日土曜日]

このブログでは食品のリスク情報とその伝え方(リスクコミュニケーション)について毎回議論しているが、今回は4月1日に施行された食品表示法の中でも、特に注目されている新たな「機能性表示食品」制度について考察した。筆者は、本制度がこれまでにない画期的な健康福祉/経済効果を日本社会にもたらし、消費者の意識向上につながるものと期待しているので、以下をご一読いただきたい。

平成25年6月14日に閣議決定された規制改革実施計画及び日本再興戦略で、加工食品または農林水産物に企業等の責任で科学的根拠をもとに機能性表示ができる新たな制度を平成27年3月末までに開始すべしとして、まさに安倍首相の第三の矢(規制緩和)が放たれ、ついにその制度が出発の時を迎えた。たった20カ月ちょっとの間に検討会等を重ね、本制度施行を迎えられた担当省庁の消費者庁・厚生労働省・農林水産省をはじめ関係者・専門家の方々に「あっぱれ」と言いたい。規制緩和を実行するには各種利益団体からの幾多の反対意見を乗り越えなければ達成できず、相当産みの苦しみを味わった分、感慨深いものがあるのではないか。

そもそも何故、本規制改革を実施することにしたのか?
 1.「病気や介護を予防し、健康を維持したい」との国民のニーズ
2.世界に先駆けて「健康長寿社会」を実現。

もちろん規制緩和をするということは、上記2点とは別に、国内食品市場においてできるだけ規制のハードルを下げ、中小企業も含めた自由競争を活発化させ、経済の活性化をもたらすという目標も当然あるだろう。

本制度は、これら3つの目標を達成するための手段であることを、まずは肝に銘じなければならない。すなわち、規制をできるだけゆるめることで、増加の一途をたどる高齢者の生活習慣病予防(=医療費抑制)につながるような機能性食品が市場にあふれ、経済の活性化にも寄与できると考えたわけだ。国民が健康長寿+QOL改善+生活も豊かになるのだから、こんなによいことはない。

だが、規制をできるだけゆるめると言いながらも、食品自体の安全性に問題が生じたり、医薬品まがいのクレームをゆるしてしまっては、国民の健康に悪影響が出てしまうことは必至だ。だからこそ、食品そのものの安全性/品質は消費者から見えない部分なので、規制は厳しめに維持する必要があるし、逆に機能性に関しては医薬品まがいのクレームにならない程度に”上手にゆるめる”ことが重要だ。その点で、筆者は常々機能性食品の規制は、「安全性には厳しく、機能性には寛容に」とうったえている。

今回の最終的な表示基準とガイドラインは消費者庁のホームページで全文を確認できるが、あまりに膨大な量なので、FOOCOM.NET森田さんのわかりやすい解説を参照されるとよいだろう:

◎4月1日食品表示法施行 ここが変わる(3) 機能性表示食品(森田満樹)
http://www.foocom.net/secretariat/foodlabeling/12446/

これまでの機能性食品は、国の規格基準に基づいて一定の機能性表示ができるビタミン・ミネラルなどの「栄養機能食品」、国の許可が必要で承認取得に巨額の開発費と時間がかかる「特定保健用食品(いわゆる「トクホ」)の二つしか認められていなかった。そのため、中小企業にとっては規制のハードルが高く、大手食品メーカーのみが規制を享受して、大きな利益を得る状況であった。

今回の第三の機能性食品=「機能性表示食品」の最大の特徴は、米国のダイエタリーサプリメント制度(DSHEA)にならって、企業等が自己責任で安全性/品質+有効性のエビデンスを消費者庁に届け出るだけで、2か月後には販売がゆるされる点であろう。実際4/1の法施行日には80前後の機能性表示食品の届け出がすでに消費者庁にあったとのことで、6月にはこれら新たな機能性表示が市場に初お目見えすることになる。トクホが、国に対して安全性/有効性/臨床試験データなどをもとに申請し、国の評価を受けて承認が下りない限り販売できないことと比較すると、「国が審査したものではない」との表示が必要ではあるものの、これは大きな規制緩和だ。

また、「世界に先駆けて」の部分は、米国のDSHEA制度にはない、一般加工食品と農林水産物にも機能性表示を許可したことだろう。この規制緩和によりサプリメント以外の形態の生鮮食品にまで機能性表示できる対象商品が拡大したので、おそらく市場にあふれる機能性表示食品は格段にボリュームが増える可能性が出てきた。その意味で、米国で1994年の施行以来これまで20年にわたって米国民の健康的ライフスタイルに寄与してきたDSHEA制度を凌駕するような健康福祉/経済効果が日本にも期待できる。

筆者は1994年~2000年まで米国に駐在し、サプリメント業界に席を置いたものとして、その活気の素晴らしさを実際肌で体感した。企業責任でエビデンスに基づいて機能性表示ができることで、「FDAが承認したものではない」といういわゆるディスクレイマー表示が義務ではあるものの、多種多様なサプリメント製品が市場にあふれ、消費者市民の健康的ライフスタイルが格段に向上し、生活習慣病予防/医療費の削減とともに、爆発的な経済効果を食品業界にもたらした。
まさに米国政府の規制改革がまんまと功を奏したわけだが、このDSHEA制度が成立した基本的背景と何をゴールとしたかを知ることは、日本の機能性表示食品制度の将来を占ううえでも非常に重要なので、少し古いが長村洋一先生の記事を参照されたい:

◎食品機能性表示を考えるー米国のダイエタリーサプリメントの現状(長村洋一)
http://www.foocom.net/column/takou/10615/

この長村先生の記事を読み解くことで、米国のDSHEA制度が安全性/機能性をバランスよく規制していることがよくわかり、筆者が上述した「機能性食品の規制は、安全性に厳しく、機能性に寛容であるべき」という基本理念に沿ったものとご理解いただけるのではないか。特に、「製品が不良食品(Adulterated Food) であるか否かを証明する責任は、米国食品医薬局(FDA)が負う」という部分が重要であり、食品の安全性はあくまでその食品自体の品質に依存するので、政府がある程度規制をかけるべきとの考え方だ。

その意味では、今回消費者庁での新たな機能性表示制度検討会において、ともすれば安全性に関してはゆるめで、機能性のエビデンス要求がむしろ厳しめであった印象があり、それが最終ガイドラインにも反映されたことが唯一気になる点だ。それでもまずは本制度が施行され、対応できる企業から市場に機能性表示食品を続々投入していけば、公開された機能性成分情報に基づいて追随する商品が多数現れることで市場は活性化するだろうから、おそらく2年後に内容が見直される際に制度の修正をかければよいだろう。

ただ今回の消費者庁検討会では、消費者/学識者ではなく、むしろ産業界サイドから、特にサプリメントに関しては医薬品基準に近いGMP製造を法的に義務付けることで安全性を確保すべきとの意見が出ており、食の安全の最適化をめざす我々NPOにとっても、近い将来ぜひとも実現してほしい制度と考えている。

すでに各方面のマスメディアで本制度に対する論評が掲載されているが、特に安全性に関する懸念の声が多いようだ。上述のとおり、筆者も安全性に関してはもう少し厳しめの基準(GMP、FSSC、HACCPなど)を義務化してほしいことに変わりはないわけだが、それはあくまで食品自体の安全性/品質を向上させるためのものであり、「機能性表示が市場に増えることが食の安全の脅威になる」とするご意見には反対だ。

今回の新たな機能性表示食品が市場に増えることで最も素晴らしいところは、企業等が届け出た安全性/機能性のエビデンス情報が消費者庁および企業のホームページに公開され、一般消費者が自由にアクセスできるようになることだ(4/1までに届け出のあった機能性表示食品の情報は5月末までに公開予定)。すなわち、これまで全く霧の中で見えなかった健康食品の安全性情報も消費者から見えるようになるので、現状、野放し状態の粗悪な健康食品(高齢者宅に無理やり送り付けられる詐欺まがいのもの)から、安全性に関しても透明性の高い機能性表示食品に切り替えが進むと考えれば、消費者にとっての食の安全が相対的に向上することは間違いない。

まあ詐欺まがいで粗悪品質の健康食品は、消費者庁にデータを届け出てまで「機能性表示食品」を求めたりしないだろうことが予想されるので、消費者にはぜひこの「機能性表示食品」というラベル表示を目標に、今後は安全な健康食品を選択していただきたい。そのためにもやはり、消費者の皆さんが「機能性表示食品」を評価する際には、安全性には厳しめに、機能性(有効性)には寛容にお願いしたいものだ。そうすることで市場において、安全な機能性表示食品と粗悪な健康食品の見分けがつくからだ(機能性の評価まで厳しいと、一般健康食品のままでは見分けがつかない)。

さらに、本制度では有害事象が発生した場合の情報収集体制も企業に義務化されるので、たとえば過剰摂取などによる副作用があれば、それも公開されることになる。こちらも現状、健康食品販売の悪徳業者たちは厚労省に摘発されるまでは、全く報告していないはずなので、改善する方向にあるだろう(医薬品に近い有害事象対策だ)。

こうして今回の制度をいろいろ議論していると、この「機能性表示食品」がまさに消費者市民社会の救世主になりうるものと思えてくる。すなわち、消費者自身が公開された情報をもとに健康食品の安全性/機能性を判断し、自分に合ったものを選択できる時代になったということだ。「いやいや、食品の臨床試験データなんて公開されたってわからないよ」と言われる方もおられるだろうが、まったく心配はいらない。

本制度のガイドラインにおいて、「販売しようとする機能性表示食品の科学的根拠等に関する基本情報(一般消費者向け)」として企業のウェブサイトなどで一般消費者にわかりやすく適切な内容で示すことが求められており、まずは自分の目でエビデンスの概略が確認できる。またさらに、消費者庁/厚労省/保健所だけでなく、消費者/消費者団体らが公開されたエビデンス情報の中身をつぶさに評価してくれるだろう。筆者のブログで、SNR(ソーシャルネットワーク・レフリー)と呼んだ方々が活躍し、景品表示法・食品表示法違反の食品はネット社会の正義によって、迅速に駆逐されるものと予測する。

機能性のエビデンス(臨床試験結果)の良しあしはよくわからない、と思われる方もおられるだろうが、そこは「機能性については寛容に」という目でエビデンスを評価していただきたい。機能性表示食品の保健機能成分はそうはいっても食品素材なので、医薬品のようなキレはなく、むしろ医薬品ほどの効果が臨床試験で認められたりしたら、それはもはや食品とは呼べず、副作用を抑えるためにも用法用量を厳しく管理すべきだ。

この点、消費者庁検討会の議論では、ともすれば医薬品に近い有効性のエビデンスとともに完璧な安全性データを同時に要求するような発言があったようだが、そんな完璧な食品機能成分はありえないというのが筆者の実感だ。「機能性については寛容に」でなければ、対象食品がほとんどなくなってしまい、制度の形骸化が危惧されるだろう。

医薬品の有効性と副作用は「もろ刃の剣」であり、機能性表示食品の保健機能成分は栄養補助(サプリメント)という意味合いが強いものとして長期間の摂取が目的で、臨床効果が軽いものである代わりに、よほどの過剰摂取以外副作用はないものとの評価をするのが適切である。もし新たな機能性成分を開発されたような場合には、機能性/有効性に関してキレがよすぎる場合は、むしろ副作用もきっちり調べると同時に、医薬品としての開発も検討する必要性が出てくるだろう。

いずれにしても本ブログの冒頭から述べているとおり、筆者は本制度が消費者の意識変革につながる画期的取り組みとして高く評価しており、これまで国のお墨付き頼みで思考停止のまま機能性食品を選択していた市民にとって、ついに消費者市民社会を形成するための船出の時がきたとの印象だ。あとは、いかに食品事業者が本制度を忠実に利用して、たくさんの機能性表示食品を開発し、目に見えるような医療費削減を達成して国民の健康長寿に貢献することだが、そこに「考える消費者」が主役として活躍できる社会になることを望むところである

以上、SFSSでは、食品のリスク管理やリスコミ手法についてコンサルティング・学術啓発講演のサービス・学術啓発イベントを実施しておりますので、いつでも事務局にお問い合わせください。また、当NPOの食の安全・安心の事業活動に参加したいという皆様は、ぜひSFSS入会をご検討ください。よろしくお願いいたします。

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(文責:山崎 毅)

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