『リスク自由主義』
~リスクの取捨選択を強制しない社会~

[2021年11月25日木曜日]

“リスクの伝道師”SFSSの山崎です。本ブログではリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方について、毎回議論をしておりますが、今回はリスクの取捨選択を社会が強制(義務化)するのではなく、あくまで市民の自己判断にまかせることの重要性について議論したいと思います。まずは、欧州で起こっているワクチン義務化(グリーン・パス)への市民の抗議デモのニュースをご一読ください:

◎欧州各地で大規模デモ 新型ウイルスの規制強化に反発
BBC 2021年11月22日
https://www.bbc.com/japanese/59369965

ヨーロッパを中心に新型コロナのパンデミックが収束しないことから、政府もロックダウンやワクチン義務化をせざるを得ない状況にせまられているが、市民は移動も含めた自由な経済活動やワクチンを接種しないことの権利を主張して、抗議活動が激化するのもうなずけるところだ。中国や北朝鮮などの社会主義国家であれば、市民に対してロックダウンやワクチン接種を義務化することで、強制的に感染拡大を封じ込めることが可能だろうが、民主主義国家ではそう簡単にはいかない。

筆者は、昨年初めに発生したCovid-19の世界的感染爆発に対して、当初よりロックダウンは機能しませんよと主張しており、昨年のクリスマス前にメルケル独首相が外出自粛を力強く国民にうったえるシーンが称賛されていたが、筆者はまったく共感しなかった:

◎緊急事態宣言(経済封鎖)は即刻解除すべし
~Covid-19感染リスク低減は市民各人にまかせよ~
山崎 毅(食の安全と安心)2020年05月01日
https://nposfss.com/c-blog/covid-19_economic_blockade/

◎リスク誤認がある限り、市民の正しい行動変容は起こらない
誤ったメッセージによる感染抑制効果は限定的
山崎 毅(食の安全と安心)2020年12月20日
https://nposfss.com/c-blog/risk_mistranslation/

やはり欧米や日本などの民主主義国家では、移動の自由、勤労の自由、表現の自由など基本的人権を保障することが憲法に明記されているのだから、もともとロックダウンやワクチン接種義務化など、市民に対する強制的規制措置は馴染まないのだ。行政が市民の自由を制限すればするほど、人権を主張して反発する市民たちが陰謀論を背景に感染拡大を助長し、表現の自由のもと差別も横行する悪循環が起こるのであろう。

これまでの欧米の感染抑制対策の失敗をみていると、経済封鎖/ソーシャルディスタンスやワクチン接種義務化による集団免疫獲得などの社会的対策が優先されており、本来もっとも重要な市民各人でできる感染リスク低減策(マスク・手洗い・消毒)が甘くなっていたのであろう。すなわち、市民のリスクリテラシーが不十分なため、ワクチン接種率が6割・7割を超えた時点で、多くの市民が集団免疫がほぼ達成できたものと勘違いして、マスクなしの飲食も問題なしとしたことで、感染力の強いデルタ株によるブレイクスルー感染が横行しているものと考えられる。

ここが日本と欧米の大きな違いで、日本も今年夏の時点では、市民の従来の感染リスク対策ではデルタ株の感染力に勝てず、感染拡大が起こってしまったわけだが、その後の医療ひっ迫による危機感などから、市民のリスクリテラシー向上とワクチン接種率上昇の相乗効果により感染拡大が急激に収まったのは朗報だ。

すなわち、デルタ株の感染拡大を完全に封じ込めるにはワクチンだけでは不十分であり、感染リスク低減策の”合わせ技”が必要なこと、しかもワクチン接種・マスク着用・手洗い・テレワーク・飲食店を選ぶこと、などのリスク対策について、政府が市民に強要(義務化)しなかった=市民の自由なリスクの取捨選択の権利を尊重したことが、日本の成功要因だったものと考える。筆者は、この市民によるリスクの取捨選択の権利を尊重することを「リスク自由主義」と呼び、市民のリスクリテラシー向上につながる公共政策を決定する際に配慮すべき原理として強調したい。

なお、市民のリスクリテラシー向上のためには適正なリスコミツールが必要なので、新型コロナワクチンについては、以下の「リスクの天秤」をご参考としていただきたい:

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◎「リスクの天秤」 新型コロナワクチン編
http://www.nposfss.com/cat3/faq/risk_balance03.html

【リスコ】 Yo-Yo、リスクン。ワクチン打ってないんだ・・副反応のリスクがこわいの?

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【リスくん】 おいら免疫力強いから、感染しても大丈夫かと・・mRNAワクチンを注射して、ウイルスタンパクが体内でできるのに、将来も安全ってわからないよね?

【リスミ】 リスクン、トランプ派? 専門家はどう評価しているのかな。
ドクターに「リスクのてんびん」で評価してもらおうよ・・

【リスくん】 「リスクのてんびん」かぁ・・ やべぇ~ いま健康なのに、副作用のリスクがあるワクチンをあえて打って心筋炎になったらイヤなんよね~

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【ドクター】 リスクン、健康体なのにワクチン接種で心筋炎になったらと思うと不安だよね?でも、新型コロナワクチンは医薬品(予防薬)だから、効果を得るためには、わずかな比率の副反応を受け入れざるを得ないんだ(ベネフィットがリスクを上回ることが条件)。
ワクチン接種による副反応リスク(心筋炎なら10万人に1人くらい)と、ワクチンを接種しないことによる感染/発症/死亡リスクを比較してごらん。ワクチン未接種だと、新型コロナに感染したら100人中2人が死亡する怖い感染症だよ。ワクチンを打てば死亡リスクが1,000人中1人程度まで下がるので、市民の生命を守る医師なら接種を推奨するのは当然だよね・・

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【リスくん】 うーん、やっぱワクチン打たないとリスクが大きいか。
かあちゃんのために打つしかない?!

【リスミ】 ドクター、リスクの説明、ありがとう。
でも、ワクチン接種の可否は自分でリスクを判断して、各人が選択することよね?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の一番こわいところは、ワクチン未接種で感染すると死亡率が高い(100人に2人が亡くなる)ことではないかと思う。その意味でもワクチン接種により重症化予防・死亡リスク低減効果が大きいことは重要だ。今後、有効な治療薬がいろいろと登場すれば、死亡リスクも下がるものと思うので、そうなれば「コロナ感染しても恐るるに足らず」となり、ワクチンも打たなくてよくなるかもしれない。

ただ、ワクチンにしても治療薬にしても医薬品に副作用はつきものであり、その副作用リスクを許容するかどうかは市民自身が医師の説明(インフォームド・コンセント)や厚生労働省が承認した添付文書情報をうけて、「リスクの天秤」をもとに「使用する」/「使用しない」の自由なリスクの取捨選択をすることに変わりはない。最近、厚生労働省の積極的勧奨が決まったHPVワクチンについても、同じようにワクチン接種の副反応リスクと未接種による将来の子宮頸がん発症リスクを天秤にかけて、最終的に接種判断を本人と親御さんで決めるというのがよいだろう。

以上、今回のブログでは、リスクの取捨選択を社会が強制しないこと:「リスク自由主義」の重要性について解説しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(非会員は有料です)。

◎SFSS食のリスクコミュニケーション・フォーラム2021(4回シリーズ)
①ゲノム編集食品、②残留農薬、③学校給食、④惣菜の衛生管理
開催速報(講演レジュメpdfあり)へのリンクをご参照のこと:
http://www.nposfss.com/riscom2021/index.html

◎SFSS食の安全と安心フォーラム㉑ (7/11)
『食物アレルギーのリスク低減を目指して』 開催速報
http://www.nposfss.com/cat9/sfss_forum21.html

【文責:山崎 毅 info@nposfss.com

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