福島原発事故 国の責任認めず~避難者集団訴訟の最高裁判決は妥当か?~

[理事長雑感2022年6月号]

“リスクの伝道師”SFSSの山崎です。本ブログではリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方について毎回議論をしておりますが、今回は福島第一原発事故の避難者が国に損害賠償を求めた集団訴訟に対して、6月17日に最高裁が判決を下したことについて、リスクの観点から議論したいと思います。

まずは、この最高裁判決について各紙がどのように報じたか、以下でご一読いただきたい(有料記事もあるので、読めるもののみご参照ください):

◎原発事故、国の責任認めず 最高裁、避難者訴訟で初判断 対策命じても「防げず」 裁判官の1人、反対意見
朝日新聞DIGITAL 2022年6月18日

https://digital.asahi.com/articles/DA3S15327572.html

◎最高裁、国の責任認めない判断 福島原発事故の避難者訴訟
産経ニュース 2022/6/17

https://www.sankei.com/article/20220617-G7DXMX43UFNQJMU5JHRQO2NM5E/

◎原発事故、国の責任認めず 避難者訴訟、最高裁が統一判断 「津波対策命じても防げなかった可能性高い」
東京新聞Tokyo WEB 2022年6月18日

https://www.tokyo-np.co.jp/article/184060

◎原発事故、国の責任認めず 避難者の集団訴訟、最高裁が初判断
日本経済新聞 2022/6/18 朝刊

https://www.nikkei.com/nkd/theme/273/news/?DisplayType=1&ng=DGKKZO6184460018062022MM8000

◎避難者訴訟 原発事故、国の責任否定 最高裁初判断
毎日新聞 2022/6/18 朝刊

https://mainichi.jp/articles/20220618/ddm/001/040/150000c

◎最高裁「国が対策命じても事故は防げなかった」…原発事故訴訟で国の賠償責任を否定
読売新聞 オンライン2022/06/17 21:33

https://www.yomiuri.co.jp/national/20220617-OYT1T50162/

◎原発事故、国の責任認めず 最高裁初の判断、津波想定以上
福島民友ニュース 2022年06月18日

https://www.minyu-net.com/news/news/FM20220618-710917.php

読者の皆さんは、この最高裁判決についてどう思われただろうか?
本件について、判決を支持する(国の賠償責任は問えない)、支持しない(国の賠償責任を問うべき)、もしくは、どちらとも言えない、を選択する無記名アンケートに、以下でご回答いただきたい:

<原発事故避難者訴訟最高裁判決についての無記名アンケート(任意回答)>
https://forms.gle/3WpjCUCyt3jocYfo9

上述の各紙記事を読み進んでいただくとわかることだが、国の責任を認めないという判決を下した最高裁第二小法廷(菅野博之裁判長)は裁判官4人で構成され、3人が本判決内容を支持したようだが、残りの裁判官1人は支持しなかった(反対意見を出した)とのこと。すなわち、最高裁の裁判官ですら意見が割れた判決なので、皆さんにも裁判官になったつもりで、アンケートにご回答いただきたいということだ。

上記のアンケートでは、判決内容を支持するかどうかがメインの設問なのだが、もうひとつ:「福島第一原発事故は国が適切な対策を東京電力に対して命じていれば、防ぐことがきたと思いますか?」という設問も投げかけているので、上述の各紙記事を参考としながら熟慮していただきたい。なお、本ブログの後半は、皆さんのアンケート結果を集計したうえで、議論を展開したいと思うので、ぜひ無記名アンケートにご協力ください。➡ https://forms.gle/3WpjCUCyt3jocYfo9

以下、7月5日時点での、本アンケートの集計結果をご参照いただきたい
「原発避難者訴訟最高裁判決アンケート_220623(回答)_220705時点(編集済み).pdf」

アンケートにご回答いただきました42名の皆様、ありがとうございます。

匿名の限られた任意回答ではあるが、「原発事故避難者に対する国の賠償責任はない」とする最高裁判決を支持しないとした方が約6割、支持するとした方が約3割、どちらとも言えないが約1割という結果となった。本回答を選択された理由に関しても、それぞれ理解できる内容となっている。

また、「福島第一原発事故は国が適切な対策を東京電力に対して命じていれば、防ぐことがきたと思いますか?」という設問に対しては、「そう思う」「まあまあそう思う」が55%、「そう思わない」「あまりそう思わない」が43%、わからないは1名だった。国の適切な危機管理対策の指示があれば防げた可能性あり ➡ 避難者への国の賠償責任も問うべき、というご見解の方々が5割~6割はおられる印象だ。

ただ、最高裁判決は覆らないであろうことを考えると、今後の賠償請求裁判においてもこの判例が優先されるため、福島第一原発事故による避難者に対して国の賠償責任は問えないことが確定した、と解釈できる。すなわち、その時点で想定外の規模の自然災害に対しては、国が原発の危機管理対策に関して法的責任を負わない、ということなのだが、未曽有の原子力災害が起こってしまった現時点では「想定外」と言えなくなったので、今後は、より大きな地震・津波が起こったとしても全電源喪失という最悪の事態にならないレベルのクライシス・マネジメントを、国と電力事業者が共同で考案する必要がある(各地で原発の再稼働にむけて既に取り組んでいるとの理解だ)。

津波に対する危機管理対策は、防潮堤を高くするリスク低減策だけが対策ではないはずで、アンケート回答でも「事故を防ぐことができたはず」との理由の中にも、いくつかそのようなご指摘があることがわかる。すなわち、津波災害のリスクから完全回避するためには、防潮堤を津波より高くするか、津波警報で迅速に避難するしかないわけだが、クライシスマネジメントとして、津波に襲われた場合でも最悪の事態を避けるための二次被害対策は検討可能なはずだ。

イメージとしては、水害に遭った場合にハザードマップで建物の1階部分が浸水する可能性が指摘されていたとしても、2階・3階に退避すれば命だけは救われるわけで、たとえ被災したとしても最悪の事態を避けるためのクライシスマネジメントができるということだ。水害のリスクが高い地域に持ち家がある場合に、もちろん経済的に引っ越す余裕があれば、もう少し高台に家を買えばよいわけだが、そこまでは投資できない場合には、上記のようなクライシスマネジメントを考えておくことが肝要になる。

原子力発電所も、高台に引っ越すことができれば津波のリスクは回避できるが、そのようなコストがかけられるはずもないので、万が一の地震/津波災害が起こった場合のクライシスマネジメント戦略が、国を揺るがず大災害を回避するためには重要ということだろう。

以上、SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(非会員は有料です)。なお、当日ご欠席でも事前参加登録をしておけば、後日、参加登録者とSFSS会員限定のアーカイブ動画が視聴可能ですので、参加申込をご検討ください:

◎SFSS食のリスクコミュニケーション・フォーラム(4回シリーズ)
第2回:『輸入食品のリスコミのあり方』(6/26、Zoom) ➡熊本県産アサリの偽装問題を議論します。

http://www.nposfss.com/riscom2022/index.html

◎SFSS食の安全と安心フォーラム第23回(7/17、Zoom)
『食品製造における微生物制御の現状と今後の展望』

https://www.nposfss.com/forum23/

【文責:山崎 毅 info@nposfss.com

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