いまなぜファクトチェックなのか?
~リスク情報の真偽を見極める批判的思考のコツ~

[2022年2月28日月曜日]

 ”リスクの伝道師”SFSSの山崎です。本ブログではリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方について、毎回議論をしておりますが、今回は食のリスクコミュニケーターにとって必要な資質のひとつとして、リスク情報の真偽を見極めるための批判的思考(クリティカル・シンキング)と科学的根拠(エビデンス)の調査をベースとしたファクトチェックの重要性について解説します。
 まずは2月20日に開催した食の安全と安心フォーラム第22回において、ファクトチェックの基本を学ぶには最適のご講演を拝聴したので、その講演要旨と講演レジュメを以下でご参照いただきたい:

◎SFSS食の安全と安心フォーラム第22回 (オンライン@Zoom)
『いまなぜファクトチェックなのか ~食のリスクにかかわる誤情報に立ち向かうために~』

forum22_6.jpg

 http://www.nposfss.com/cat9/sfss_forum22.html
 【開催日】2022年2月20日(日) 14:00~17:00
 【主催】NPO法人食の安全と安心を科学する会(SFSS)
 【後援】消費者庁・東京大学大学院農学生命科学研究科・
 ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)
 【参加費】一般3,000円(SFSS会員、後援団体、協賛社、メディアは参加費無料)

➀開会あいさつ 『ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のご紹介』(事前撮影動画)
  瀬川 至朗(FIJ理事長、早稲田大学政治経済学術院教授(ジャーナリズム))
   <瀬川先生講演レジュメ/PDF:2.32MB

②『ファクトチェックとは何か~FIJ ファクトチェック・ガイドラインの解説~』
  楊井 人文 (弁護士 / FIJ 理事 兼 事務局長 )
 世界各国で広がっているファクトチェック活動の現状を踏まえ、各国でどのような人たちが、どのような手法でファクトチェックを行っているのか、国際的な拠点となっているIFCN(国際ファクトチェックネットワーク)について紹介します。また、日本でのファクトチェックの現状とFIJのガイドラインについて解説します。新聞記者を経てファクトチェックに長く携わってきた経験を踏まえ、ファクトチェックの要諦と、誤情報問題に対する向き合い方についてもお話したいと考えています。
楊井氏講演レジュメ/PDF:2.33MB

③『ファクトチェッカーの心得~InFact のファクトチェックの事例から~』
  立岩 陽一郎 (InFact 編集長)
 岸田首相は「被爆地広島出身の総理大臣」と言えるのか?共産党の綱領に「天皇制はおかしいとは書いていない」はどう判定するのか?維新の会が進める(大阪)都構想をファクトチェックする時に直面した問題は?誰が見てもおかしい「大阪の(新型コロナ)感染者に日本人はいない」はなぜ誤りと判定しなかったのか?2017年総選挙以後、統一地方選、新型コロナ、2020年総選挙など様々なケースでファクトチェックを実施してきたInFactでの事例をもとに、ファクトチェックをする際の心得を説明する。
立岩氏講演レジュメ/PDF:923KB

④『情報汚染対策のための包括的な協力体制に向けて』
  古田 大輔 (ジャーナリスト / メディアコラボ代表、 FIJ 理事)
真偽不明の情報が大量拡散する現代において、ファクトチェックは重要です。それなしではデマへの歯止めがなくなるからですが、それだけでは不十分です。必要な人に届くか、届いても信頼されるか、その情報は間違っていると指摘するだけでは分断を深める方向に働くのではないか。課題は山積しています。人々が自分に必要で信頼に足る情報を日常的に摂取し、事実に基づかない情報に悪影響を受けないようにするためにどうすべきか。朝日新聞記者、BuzzFeed Japan創刊編集長、独立して今はGoogle News Labでこの問題に対峙してきた経験から、包括的な取り組みの国内外の事例を紹介します。
古田氏講演レジュメ/PDF:570KB

⑤『なぜテクノロジーでファクトチェック支援に取り組むのか』
  藤村 厚夫 (スマートニュース株式会社フェロー、 FIJ 副理事長)
虚報、誤情報、そして偽情報。いずれもインターネットという情報技術(IT)をテコにしてこそ猛威を振るいます。そのため、(日本を除く世界では)ITを駆使する超大手に対する批判や懸念が高まっています。しかし、”IT=悪者”説に依拠するだけではことの解決に近づきません。ITを活用して偽情報の流通に対抗するアプローチが可能なはずです。ニュースアプリ「SmartNews」が、FIJや研究者らと協力して取り組んできた実践事例の解説をはじめ、ITをめぐる攻防のゆくえ、メディア・ジャーナリズムとITの連携の可能性などについて論じます。
藤村氏講演レジュメ/PDF:1.0MB

 今回のフォーラムでは、食のリスクコミュニケーターにとって課題となっているメディア上の誤情報に立ち向かうために、なぜいまファクトチェックが必要なのか、そしてどのような手法と心構えでファクトチェックに取り組むべきか、この分野にくわしい有識者5名より学ぶ機会を得ることができた。

 週刊誌の記事などで散見される食のリスクに関する不正確な情報は、消費者市民の確証バイアス/リスク誤認を助長するものとして、明白に公益性に反する深刻な誤情報ゆえにファクトチェックの対象言説となるのだが、怪しい専門家が監修して、科学論文を引用しながら創作された虚偽情報を真偽検証するのは容易ではない。

 なぜなら、引用された科学論文情報には誤りがなくとも、監修者がビジネス目的で誤った解釈を記事見出しにして消費者の不安を煽るので、エビデンスチェックの難易度があがるからだ。上述のフォーラムでも、古田大輔氏が誤情報(misinformation)・偽情報(disinformation)以外に、Malinformationというタイプの攻撃意図をもった半分は事実に基づいた情報があると指摘されている。しかも、ただ闇雲に真偽検証をするだけでは、ファクトチェック記事として第三者から信頼されるものにはならず、下手をするとファクトチェック記事自体が誤情報になってしまう危険性もはらんでいる。

ifc_factcheck.jpg

 そこで重要となってくるのが、上述のフォーラムでも楊井人文氏が述べられた国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)によるファクトチェック綱領だ(右図を参照のこと)。要は、ファクトチェックをする主体が公正かつ中立的で、透明性も高いかどうかが問われるという事だろう。国内では2017年に設立当初より筆者も理事として参画したファクトチェック推進団体のファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)が、このIFCN綱領に沿ったファクトチェック・ガイドラインを発表している ➡ https://fij.info/introduction/guideline

 SFSSでも、このFIJガイドラインに準拠したファクトチェック運営方針をウェブサイトで公開しており(http://www.nposfss.com/cat3/fact/02_operation_policy.html)、これまで食のリスク情報に関わる疑義言説を中心に、ファクトチェックを実施し、記事化しているのでご参照いただきたい。

◎食品添加物トレハロースは本当に危険か⇒「事実に反する」(レベル3)
 ~SFSSが英誌Natureの問題提起論文をファクトチェック!~

  http://www.nposfss.com/cat3/fact/trehalose.html

◎『食べてはいけない「超加工食品」実名リスト』⇒「フェイクニュース(レベル4)」
 ~SFSSが週刊新潮記事(2019年1月31日号)をファクトチェック!~

  http://www.nposfss.com/cat3/fact/shincho_20190131.html

◎「遺伝子を破壊した野菜や魚『ゲノム編集食品』は安全審査なし、発がん物質の発見も」
 ⇒「フェイクニュース(レベル4)」
 ~SFSSが週刊女性記事(2021年10月19日号)をファクトチェック!~

  http://www.nposfss.com/cat3/fact/w_josei_20211019.html

 これらSFSSによるファクトチェック記事は、すべてFIJガイドラインに準拠したファクトチェック手法に基づいて実施されたものであり、科学的エビデンスとその情報源を特定したうえで真偽判定をしているため、これまで大きなクレームを外部より受けたことはない。

 また筆者自身も採り上げた疑義言説に対するエビデンスチェックにおいて、批判的思考(クリティカルシンキング)で取り組んだつもりだが、必ずしも最初から誤情報=「事実に反する(レベル3)」や虚偽情報=「フェイクニュース(レベル4)」と決めつけたわけではなく、最終的に正確(レベル0)や不正確・ミスリーディング(レベル2)などの真偽判定結果に落ち着いたファクトチェックもあるので、これまでの成果をご覧いただきたい ➡ http://www.nposfss.com/cat3/fact/

 このファクトチェックは、ジャーナリストや専門家だけが取り組むものではなく、実際に一般市民や学生たちも、政治家の発言やTwitterのつぶやきなどを対象言説として記事化しており、誰でも気軽に取り組めるものだ。ただやはり、もともと市民のリスク認知に大きな影響を与えるメディアにおいて、記事を拡散する前に批判的思考・吟味的思考(クリティカル・シンキング)を働かせることがメディア・リテラシー向上につながることが、以下の新刊書籍で議論されており、上述のフォーラムに登壇された藤村厚夫氏が最初の章を執筆されているので、ご一読いただきたい:

◎新刊案内:『メディアリテラシー ~吟味思考(クリティカルシンキング)を育む~』
 坂本 旬 / 山脇 岳志 編著、 時事通信出版局 刊

  https://bookpub.jiji.com/book/b597275.html

 以上、今回のブログでは、食のリスクに関わる誤情報に立ち向かうためのファクトチェックと批判的思考の重要性について議論しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(非会員は有料です)。

◎SFSS食のリスクコミュニケーション・フォーラム2021(4回シリーズ) 開催報告
 ①ゲノム編集食品、②残留農薬、③学校給食、④惣菜の衛生管理

   http://www.nposfss.com/riscom2021/index.html

【文責:山崎 毅 info@nposfss.com

タイトルとURLをコピーしました