『不安煽動指数(Aoring Index)』 (2014年11月17日)

山崎  毅
NPO法人 食の安全と安心を科学する会理事長
山崎 毅

4月20日、東京大学食の安全研究センターにて開催された「食のリスクコミュニケーション・フォーラム4回シリーズ「食の安心につながるリスコミを議論する」の第1回にて筆者が発表した『不安煽動指数(Aoring Index)』というリスコミの新しい評価手法についてご紹介する。『不安煽動指数(Aoring Index)』は、情報発信のコンテンツが以下の10項目に該当するかどうかを判定し、該当した項目数をAoring Indexとして不安をあおる要素がどの程度強いかを評価することが可能である:

Aoring Index

 1. 恐ろしさ因子(重篤性)  6. 発信者不誠実度因子
 2. 災害規模因子  7. 引用元信頼度利用因子
 3. 未知性因子  8. 数値比較不在因子
 4. 情報拡散度因子  9. エセ科学因子
 5. 管理基準厳格度因子  10. 『一事が万事』

これらの判定因子の最初の3つ(1.恐ろしさ因子、2.災害規模因子、3.未知性因子)は1980年代にSlovicが唱えたリスクイメージの因子分析であげられたものであり、これら因子に該当するものほど、消費者はリスクを過大にイメージする。典型事例として、原発事故による低線量放射線被ばくがある。「原発事故による放射線被ばくは、たとえ少量でも将来ガンになるかもしれないが、実は専門家もよくわかっていない・・」などという記事は、「1.恐ろしさ因子(重篤性)」、「2.災害規模因子」、「3.未知性因子」のすべてに該当し、消費者のリスクイメージは必要以上に大きくなって、不安を煽ってしまうことがわかる。実際、米国産の遺伝子組み換え(GM)食品を論じた最近の週刊誌記事に関して、不安煽動指数(Aoring Index)を計算してみたところ、以下の結果を得た:

 1. 恐ろしさ因子(重篤性)⇒GM食品によるガン発症などを示唆:○
 2. 災害規模因子⇒TPPにより米国産GM食品大量輸入を示唆:○
 3. 未知性因子⇒GM食品残留農薬の安全性はよくわかっていないと強調:○
 4. 情報拡散度因子⇒全国版週刊誌:○
 5. 管理基準厳格度因子⇒GM食品に関する国内法は冷静な基準:×
 6. 発信者不誠実度因子⇒輸入食品に問題ありとの結論ありきが明白な記事:○
 7. 引用元信頼度利用因子⇒海外研究者のコメントを引用し、信頼度を利用:○
 8. 数値比較不在因子⇒健康被害が起こる可能性のある用量との比較なし:○
 9. エセ科学因子⇒GM食品の毒性論文は科学雑誌から削除された:○
 10. 『一事が万事』因子⇒米国産GM食品輸入でメキシコが肥満率世界一?:○

以上、Aoring Indexは9個該当したので、必要以上に不安を煽っている記事として「情報発信中止すべし」との判定結果となった。ジャーナリストの方々は「記事が売れてナンボ」なので消費者の不安を煽る傾向にあるのは性なのかもしれないが、今後はSTAP細胞問題に端を発した「科学コミュニケーションのあり方」の観点から、社会的批判を浴びる可能性が高いであろう。上述の事例は、報道・ジャーナリズムによる消費者へのリスコミを評価したものであったが、不安煽動指数(Aoring Index)は企業から消費者へのリスコミ(広告チラシや広報記事など)の評価にも使えるので、企業の広報・CSR・お客様相談室担当者は、試みていただきたい(詳しくはWEBで⇒http://www.nposfss.com/blog/aoring_index.html)。

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