NPO食の安全と安心を考える会理事・京都大学名誉教授
小川 正
近年、食物アレルギー患者、特に乳幼児や児童など若年層の患者の増加に伴って、アレルギー食品の誤摂取による事故が多発する傾向にあります。誤摂取によるリスクの発生を回避するには、患者、家族、患者が属するコミュニティーの仲間、食品(食事)を提供する関係者らすべての人がアレルゲン物質、食物アレルギーの成立過程、重篤な臨床症状の惹起プロセスについての正しい知識を共有することが必須であります(表1)。
通常、「食物アレルギー」は、体内に侵入した異物(抗原・アレルゲン)とこれに対して作られた抗体(IgE)との免疫反応であり、種々の臨床症状の惹起を伴うI型(即時型)アレルギーを指します。アレルゲンの体内への侵入経路(気道や消化管)が異なるもののアレルゲンに特異的な抗体(IgE)を産生するに至る過程(感作)、アレルギー独特の臨床症状を惹起するに至る一連の基本的生化学反応(抗原・抗体反応、化学伝達物質の遊離、臨床症状の誘発)は、食物アレルギーや花粉症などすべてのⅠ型アレルギー疾患に共通するものです。食物アレルギーの発症は食品中の成分(特にたんぱく質)が主要なアレルゲンとなっています。我が国の場合、症状の重篤性(全身アナフィラキシーショックなど)から勘案して、牛乳・卵・小麦・ソバ・ピーナッツ・えび・かにの7品目については、加工食品にその食品由来のたんぱく質を10ppm以上含有する場合、その旨を表示することを食品表示法により義務付けています。
リスク回避には、第一に「患者の感作アレルゲンに関する正確な診断法(正確な臨床検査法および発症閾値評価法)の確立」、第二に「患者の摂取対象食品(加工食品、惣菜)、外食での提供食品(料理)中のアレルギー食品(アレルゲン)の有無の正確・適切な情報提供」、第三に「食品表示法に基づくアレルギー食品の正確な分析法の確立と各アレルギーに対する発症閾値の評価」、第四に「行政による関係者(給食・調理・外食の担当者)の教育」、第五に「食育活動による一般消費者への食品表示法などの周知徹底、抗アレルギー食生活の指導」、などの諸策が必要です。第四の課題に関して、国は今年に入って「アレルギー疾患対策基本法」を施行し関係者の教育に本腰を入れることになりました。その他、最近の傾向として、花粉、ラテックスなどのアレルゲンが食物たんぱく質と交差し(表2)、特殊なアレルギー症状(口腔アレルギー症候群など)を惹起することが認められ、これ等への対策(リスク回避)も急務となっています。