「バカモンGO殺人事件」~理不尽な正義感による死亡リスク~

[2016年8月6日土曜日]

このブログでは食品のリスク情報とその双方向による伝え方(リスクコミュニケーション)について毎回議論しているが、今月はいま話題のAR(拡張現実)技術を利用したスマホゲーム「ポケモンGO」について、7月22日に日本上陸後、すでに事故やトラブルが散見されているようなので、そのリスクについて考察してみたい。これまで本ブログで議論してきたCRA(前提条件付きリスク評価)により確定的死亡リスクが高くなる事態であれば、社会/個人としてのリスク低減策をとる必要がある。

まずは、世間を急に騒がせた「ポケモンGO」が実際どのようなゲームなのか知らないという方のために、ウィキペディアにて本ゲームに関する概況を参照されたい(結構なボリュームなので全部をよむ必要はない):

◎ウィキペディア『Pokemon GO』
https://ja.wikipedia.org/wiki/Pokemon_GO

本ゲームの特徴は、世界中で広く普及しているスマートフォン(iPhoneやAndroidなど)の位置情報活用技術(GPS機能)を利用し、現実の世界においてポケットモンスターという仮想キャラクターを液晶画面に登場させ、捕獲・育成・進化させ、楽しむことができるというところだ。イメージとしては、グーグルマップ/グーグルアース/カーナビの地図上に、突然いろいろなモンスターが現れるのを捕まえて遊ぶことができる、仮想と現実が一体化した(即ちAR技術を応用した)ゲームということだろう。世界中で大きな反響をよんでおり、地方や店舗の活性化にも貢献する本アプリを開発した任天堂(株式会社ポケモン)/ナイアンティックは本当にたいしたもんだと感心するばかりだ。

ここまで読んだだけで、「若者が夢中になりそうなゲームだなぁ。でもちょっと試してみたい・・」、もしくは「カーナビにポケモンがでてきたら危ないでしょ。けしからんなぁ・・」などの感想をもたれた方が多いのではないか。もちろんすでに「ポケモンGO」を試した方々は実際の動きを体験されているので、「おもしろい」「難しい」「つまらない」「ちょっと危ない」など多様な感想をもたれているのだろうが、まわりの人々の反応も複雑だ。

実際、各地で交通違反による取り締まりが強化されているが、小さな交通事故、違法駐車、違法住居侵入、海外ではついに私有地にポケモントレーナーが無断で侵入したことに対して訴訟を起こした例まで報道されている。公共機関のプラットフォームや電車の中でも、「歩きながらのスマホ操作や位置情報を利用したゲームは、線路への落下やまわりの人への迷惑になるので止めてください!」というアナウンスが最近増えてきたが、隣にすわっている中年のおじさんでもスマホの画面を激しく横にこすっている姿をみると、ポケモンの捕獲に夢中になると、車内アナウンスなどまったく聞こえないのだろうと想像する。

別に「ポケモンGO」に限らず、「ながらスマホ」の事故リスクが比較的大きいことはこれまでも叫ばれていたことだが、今回の「ポケモンGO協奏曲」でさらにその事故リスク/死亡リスクが以前に比べて大きくなったことは間違いない。本年4月に本ブログで考察した『前提条件つきリスク評価(CRA)』において、自転車乗用時の死傷事故に関して、自転車乗用者は交通違反をすることにより事故に遭うリスクがほぼ2倍になるというデータをお伝えした。前提条件が変われば、事故に遭うリスクは思いのほか大きくなり、とくに自転車・自動車の運転者だけでなく、歩行者までもがスマホゲームに夢中になって歩いていたら、コリジョンが起こるリスクは2倍、4倍、8倍と倍々ゲームで大きくなっていく。

上述のウィキペディアにも記載されているが、運営者サイドでいくつかの安全対策(利用規約への同意や注意喚起画面を通らないとゲームが開始できない等々)がとられており、スマホを眺めながら移動する必要のないデバイス(ポケモンGO Plus)なども発売されている。また、安全に使用するためのガイドライン(コミュニティーの尊重、プライバシーの尊重、一般社会でのルール遵守など)も発表されている。ポケモントレーナーの皆さんはぜひ熟読いただきたいものだ:

◎『Pokémon GO』を楽しく安全に遊んでいただくためのガイドライン
http://www.pokemon.co.jp/info/2016/07/go_at01.html

ただ、このような安全対策では事故に遭うリスクが十分に低減できないことが予想され、いつかは死亡事故が起こるのではないかと危惧する。技術的には、最近のカーナビでサイドブレーキを引かない限り操作ができないのと同様、スマホユーザーが静止した状態でしかプレーできないような縛りがソフトに組み込めればよいと思うが、現段階ではよほど速いスピードで車を運転している最中しか操作不能状態にはできないようだ(GPS機能の限界か?)

日本国内は死亡事故が1件でも起こると、急に社会全体からの批判が起こり、ポケモンGO禁止論が高まる可能性が高い。地域経済の活性化も含めて「ポケモンGO」のメリットは非常に大きいだけに、それは避けたいところだ。ちなみに、最近毎日新聞に掲載された世論調査によると、すでに規制をするべきだという声はかなり多いようだ:

◎本社世論調査:「ポケモンGO規制を」73% – 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160805/k00/00m/010/122000c?fm=mnm

日本で登場してからまだ2週間もたっていないにもかかわらず、この大騒ぎは何なのだろうと思うが、流行に流されやすい日本人だからこそこのような事態になったのだろう。筆者がいま最も心配しているのは、この「ポケモンGO」で夢中になったプレーヤーたちのことを「けしからん」と思っている国民が4人に3人もいるということだ。しかもそのような社会的モラルに反するスマホユーザーたちが、夢中になってゲームを楽しんでいる姿をみて、苛立ちや怒りを覚え「バカモン」と叫ぶだけならよいが、「おまえらなんかこの世から消えてしまえ」という殺人事件に発展する可能性も否定できない。

駅のプラットフォームで、プレー中のスマホユーザーが故意に突き飛ばされて電車に轢かれる・・といったような遭難リスクが十分起こりうるので、真面目に駅のプラットフォームやバス停などで「ポケモンGO」は止めた方が賢明だろう。逆に、「ポケモンGO」のメリットとして「ひきこもり」・「おたく」・うつ病患者たちが屋外に出てプレーすることで症状の改善が期待できるとの話があるが、夢中になりすぎてモラルのない行動をとってしまった病的なプレーヤーが、「バカモン」と嗜められた途端に、逆切れして叱責した高齢者が犠牲になるというような事件も起こりうる。「ポケモンGO」をやっているスマホユーザーの目が座っていたら、厳しく叱責するのも考えものだ。

相模原の障害者施設における殺傷事件、バングラデッシュ/ISILのテロ事件、世界各地で起こってきた戦争など、自分たちの思い通りにならない人間を無差別に殺傷してしまう「理不尽な正義感」が横行する世の中になってきたことは本当に恐いことだ。おそらく人間が最も大切にすべき価値観として「生命倫理」が最優先されないなら、「正義感」や「理念」を語る資格が全くないということを、小中学校のころから道徳教育として潜在意識の中に刷り込む社会が必要と強く感じる。一見非常に平和な世界になってきたはずだが、思いのほか死亡リスクが高い空間が日本にもいまだ点在することを認識し、そのリスク低減策を今後も考えていきたいものだ。

以上、今回のブログでは「ポケモンGO」のもたらす死亡リスクの可能性について考察しました。SFSSでは、食品のリスク管理やリスコミ手法について学術啓発イベントを実施しておりますので、いつでも事務局にお問い合わせください:

◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2016(4回シリーズ)
http://www.nposfss.com/riscom2016/

また、当NPOの食の安全・安心の事業活動にご支援いただける皆様は、SFSS入会をご検討ください。(正会員に入会するとフォーラム参加費が無料となります)よろしくお願いいたします。
◎SFSS正会員、賛助会員の募集について
http://www.nposfss.com/sfss.html

(文責:山崎 毅(一部修正 2016/8/6))

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