食と免疫・アレルギーの関係解明と応用(2024年2月12日)

東京大学大学院農学生命科学研究科・附属食の安全研究センター
八村敏志



 免疫系は、私たちの体を病原体感染から守るしくみであるが、腸管はそもそも「内なる外」として外界につながっており、病原体の脅威にさらされるだけではなく、私たちが日々摂取する食物、それからヒトでは40兆個ともいわれる腸内共生菌が異物として存在し、最大級の免疫系を備えている。そして食物は、この腸管免疫系を介して、免疫応答に影響を与える。
 抗原特異的に免疫反応が私たちの体を傷つけてしまう疾病がアレルギーである。食物によって引き起こされるアレルギーが食物アレルギーであり、食物が免疫系に与える負の影響といえよう。この食物アレルギーの抑制機構の一つが、経口摂取されたタンパク質に対する免疫応答の低下である、「経口免疫寛容」である。食物中のタンパク質が消化されアミノ酸になるとT細胞は認識できずアレルギーは起きないが、タンパク質の一部は大きな分子のまま吸収されることがわかっており、そのような場合に経口免疫寛容が働く。この経口免疫寛容は古くから動物実験で確認されていたが、ヒトで誘導されるかどうか長い間はっきりしなかった。これに対し、2008年にLackが、タンパク質抗原が経口的に摂取されると経口免疫寛容が誘導されるが経皮的に体に入ると免疫応答が引き起こされアレルギーにつながる、という二重暴露仮説を唱え1)、続いて、LEAP Studyという臨床研究で、乳幼児期にピーナッツを積極的に摂取したグループは、食事から除去したグループに比べて、後でピーナッツアレルギーになる頻度が著しく低いことを示し2)、ヒトにおいても経口免疫寛容が誘導されることを世の中に示した。
 一方で、食物の摂取により免疫応答を好ましく調節することが可能であることも明らかになってきている。例えば、私たちは、経口免疫寛容や食物アレルギーマウスモデルを用い、経口免疫寛容や食物アレルギーの機構を解明するとともにオリゴ糖や乳酸菌で経口免疫寛容が増強されること3,4)、また、牛乳塩基性タンパク質の摂取により食物アレルギーが緩和されることを明らかにした5)。このような食品素材により、アレルギー症状が緩和できることを期待して研究に取り組んでいる。
 また、免疫系により引き起こされる炎症が様々の疾患の増悪に関係していることが明らかになってきている。例えば肥満による脂肪組織における慢性炎症反応が、糖尿病等の生活習慣病につながることが指摘されている。食物素材による炎症抑制がこのような疾患を抑えられる可能性が考えられる、私たちは、高脂肪食摂取マウスモデルにおいて、漢方中の成分β-elemeneやヨーグルト用の乳酸菌が、腸管免疫系を介して、脂肪組織による炎症を抑制することを示した6,7)。特にβ-elemeneが腸管樹状細胞への作用を介して制御性T細胞を誘導し、これが脂肪組織における炎症を抑制できたことは、腸管免疫系を介して他の部位での炎症を抑制できることを示す例として、注目している6)。このような形での食品による生活習慣病のリスク抑制も広い意味で食の安全の向上につながると考えている。

引用文献
1) Lack et al. J. Allergy Clin. Immunol. 121:1331, 2008.
2) Du Toit et al. N. Engl. J. Med. 372:803, 2015.
3) Tomita et al. Biosci. Biotechnol. Biochem. 71:2774, 2007.
4) Aoki-Yoshida et al. PLoS One. 11:e0158643, 2016.
5) Ono-Ohmachi et al. J Dairy Sci. 101:1852, 2018.
6) Zhou et al. iScience. 24:101883, 2020.
7) Wang et al. Front Immunol.14:1123052, 2023.

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