別府大学食物栄養科学部 教授
高松伸枝
1 食物アレルギーの現状
食物アレルギーをもつ子どもは増加傾向にある。東京都のアレルギー疾患に関する3歳時全都調査によると、罹患率は平成11年度の7.1%から平成26年度の16.7%と大きく変化している。食物アレルギーの認知の拡がりとともに、食物アレルギーを診断できる医療機関が増えていることも背景にあろう。
食物アレルギーは、原因となる食物や重症度、症状の種類、耐性獲得までの道のりが患者によって大きく異なり個別対応となる。乳幼児期で発症頻度の高い原因食物は、鶏卵、牛乳、小麦であり、これらで90%を占めている。これらは主食やおやつの主材料になるために食物選択に困る家庭も少なくない。まれではあるが、ごく微量で症状誘発がみられる、あるいは多品目の原因食物をもつ重症児の場合は、家族を含めた生活全体の管理が必要となる。
2 食物アレルギー児の食事管理
乳幼児期に発症した食物アレルギーの場合には、学童期までにその60〜70%が耐性獲得することが臨床研究で明らかになってきた。したがって、治療中は原因食物を使用せず症状の誘発を避ける食事指導となり、耐性獲得後は原因食物を円滑に食事に導入するための支援となる。栄養食事指導に関しては、厚生労働科学研究班による「食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2017」が公表されている。その中では「必要最小限の原因食物の除去」が提示されており、1)”念のため””心配だから”と必要以上に除去食物を増やさず、症状が誘発される食物のみの除去とする。2)原因食物であっても、食物経口負荷試験等に基づき症状が誘発されない量までは摂取できる。とし、成長期を鑑みた栄養素の充足と食のQOLの確保が求められている。昨今、鶏卵を使用しない魚肉加工品やマヨネーズ風調味料、豆乳で作られたヨーグルトやチーズ風の製品、米粉やとうもろこし粉原料の麺類などの加工食品も普及しており、これらを適宜取り入れた負担の少ない食事アドバイスも行われている。栄養素摂取では牛乳アレルギー児のカルシウム補給の他、環境省「エコチル調査」によるビタミンD摂取についても考慮が必要である。
最近では研究施設を中心に経口免疫療法が導入され、積極的な治療が行われるようになった。症状誘発閾値を超えない原因食物の摂取を継続するが、治療の中断あるいは耐性獲得をしてもトラウマの影響で通常の食生活へ戻ることができないケースもある。特に摂取抵抗の強い鶏卵においては、試験・治療用食品の開発が産学医連携で進められている。
3 食物アレルギー児の社会的対応
食物アレルギー児の通う保育・教育施設においても、集団生活におけるケアや給食対応が求められている。大分県の調査ではアドレナリン自己注射薬持参児が2011年は8名であったが2016年は120名に増加しており、重症児を含めた多様な患児への給食対応は複雑化している。現場担当は単独がほとんどで食数が多いほど苦労を感じており、ヒヤリハット事例では「誤配」「加工食品の原材料の確認不足」などのヒューマンエラーが最も多い傾向にあった。患児の安全を考え、各施設に応じたサスティナブルな提供方法を家庭と施設関係者全体で考えていく必要がある。加えて、保育・教育施設内で初めて誘発される例もあり、前述の原因食物以外に果物や甲殻類などによる食物依存性運動誘発アナフィラキシーが報告されていることから、今後は一層の関係者の理解と緊急時の体制整備が求められている。
食事は本来、家族の団欒をもたらすもので、子どもの楽しみである。治療中であっても、原因食物以外の多種の食物を用いて、家庭や集団生活の中で豊かな食事となるような食育と支援が望まれる。