藤田医科大学総合アレルギーセンター小児科教授
近藤康人
食物アレルギーのひやりはっと事例集について
人間はもともとミスを犯しやすい動物であるため、ヒューマンエラーは避けられません。重大事故(アクシデント)が発生する前には、その前に多くの「ひやりはっと(インシデント)」が潜んでいるおそれがあります。そこで藤田医科大学小児科免疫アレルギーリウマチ研究会のグループは、藤田医科大学総合アレルギーセンターのホームページ(http://www.fujita-hu.ac.jp/general-allergy-center/)に誤食に関するインシデントを入力するバナーを設け、そこから得られる情報と、NPO法人アレルギー支援ネットワークの協力を得て、団体が企画する講習会などに参加した方々へのアンケートから得られた誤食に関する情報を収集し、それら事例1例1例を検証、解析して1冊にまとめた「ひやりはっと事例集」を毎年編集しています。尚、事例集は総合アレルギーセンターの活動情報のページ(http://www.fujita-hu.ac.jp/general-allergy-center/activity/hiyarihatto/)に掲載しており誰でもダウンロードが可能です。各事例は起こした場所(状況)ごとに分類され、年齢、原因アレルゲン、誘発症状、誤食の解説とその予防対策について記載されています。
年齢、発生場所、原因食品の内訳
収集されるインシデントは毎年200例ほどあり、2020年の集計数は211例で、年齢は2-7歳に多く、発生場所の内訳としては毎年同様で、自宅が最も多く全体の1/3を占め、次いで教育施設が全体の1/4、外食が1/5を占めています(図1)。原因食品も毎年大体同じで(図2)、牛乳、卵がほぼ同数で、これら2大アレルゲン食品で全体の6割を占め、次いで小麦が全体の1割を占め、次いで1割に満たないものの、エビやピーナッツ、クルミが続き、アレルギー表示義務食品が全体の8割を占めています。
インシデントの原因とそれに対する予防策(事例集からの抜粋)
誘発閾値:アレルギー症状を起こすアレルゲンの量(誘発閾値)は個人で異なります。また同一人物であっても体調の変化(生理の周期、感染症、ストレス)、運動、入浴などによって、誘発閾値が低下することがあります。アレルギー児を預かる施設では、誘発閾値に関する情報を患者の家族や主治医から得ておく必要があります。個別対応が困難な多人数を預かる施設では安全性を優先した完全除去対応が望ましいです。
誘発経路:アレルゲンは食べられるようになっても吸入や接触によって軽度の症状を誘発する場合があります。小麦粉の袋、小麦粘土、牛乳パックなどを教材にした授業や、魚や卵の料理実習で体の一部に発赤、かゆみ、腫脹などの症状を起こした事例が散見されます。予防策としてはアレルゲン食品が入っていたものは教材にしないこと、調理実習中はマスクやメガネを利用したり、離れたところでの見学などの配慮が必要です。
誘発された症状に対する救急対応
2020年に収集されたインシデントによる誘発症状の半分は軽症でしたが、残りの半数はアドレナリンの適応がある症状で病院を受診していました。
このうちアドレナリン自己注射薬(エピペン®)を持っていた患者51症例中に絞ると13例(25%)しか使用できておらず、使用できなかった38症例のうち35症例は病院で何らかの処置を受け11名が入院していました。この結果からアドレナリン適正使用に関する指導はまだまだ不十分だと感じており、我々小児科は藤田医科大学地域医療および愛知教育大学と組んで、毎年(コロナ禍で制限される場合がありますが)、要望をいただいた教育施設に出前講義を行っております。