「抗疲労食」の取り組みと今後の展望 (2013年12月17日)

東京大学 食の安全研究センター特任教授
大阪市立大学 疲労クリニカルセンター客員教授
倉恒弘彦


倉恒弘彦

私たちは、疲労・疲労感の分子・神経メカニズムの解明と対処法の開発プロジェクトを進めてきておりまして、「抗疲労食」の取り組みも行っています。 そこで、今回は渡辺恭良先生(独立行政法人理化学研究所)のもとで大阪市立大学における「抗疲労食」の中心的な取り組みを続けてこられた福田早苗先生(現:独立行政法人理化学研究所上級研究員)に「抗疲労食」の取り組みと今後の展望について伺ってみました。

以下は福田先生から頂いた原稿の抜粋です
「抗疲労食」の取り組みは、平成21年2月末~に秋葉原”東京フードシアター5+1″で、「抗疲労を考えた食事メニュー」の開発からスタートしています。その後、産学官連携で開発したランチ【抗疲労を考えた特製御膳】を大阪市役所内食堂で販売、サンケイリビング新聞「毎日元気!疲労回復レシピ」の連載にも参画し、その中に掲載されたレシピも含め、抗疲労レシピ本「抗疲労食」としてまとめました。また、平成23年度には『おいしく元気に疲労回復!』レシピコンテストも開催され、抗疲労研究を応用して、疲労の軽減等に効果的な食材を使ったレシピを「主菜」・「副菜」・「ご飯もの」・「デザート」の4つの部門に分けて募集し、「うちのごはん.jp」ページ内で人気投票を行い、上位の人気レシピについて書類審査及び試食審査会を経てグランプリを決定しました。優秀レシピが商品化され阪神阪急百貨店・コンビニエンスストア「アズナス」で期間限定販売にいたっています。平成24年度には、特に”抗疲労食”とは何か?どんな食材を、どのように、どのくらいとればと良いか?という基準が欲しいと、多数の企業から声があがっており、これを受けて大阪産業創造館主導で、抗疲労食の目安のフードガイドを作成しています。

このように研究~事業化まで順調にみえますが、実の所問題点も多々あります。1つ目は「抗疲労食とは何か」と定義をすることは意外に難しいということです。「疲労しないようにする」のか「疲労を回復するのか」によって、抗疲労の意味合いは異なります。また、「健康」な人が対象であると仮定して「特定の成分だけを食べ続ける」ことは推奨されるべきことではありません。食生活だけ改善しても毎晩眠っていないとか、全く運動をしないといった他の生活習慣に問題があれば、「抗疲労」の効果は期待できません。「減塩食」というのは摂取する食塩の量を減らすと非常に明確ですが、「抗疲労食」に明確な設定をすることは非常に難しいのです。

2つ目は、疲労の研究は十分であっても「抗疲労食」の研究としては足りない部分が多いことです。確かに、どの成分が疲労に効果があるかそして、それらの栄養分がどの食材に多く含まれているかについては分かっていても、実際にそれらの栄養分だけを食べ続ければ効果があるという訳でもなく、やはり幅広い食材をバランスよく、またバランスだけでなく食事摂取時間の規則正しさや食事を食べるスピードや環境も大きく影響する可能性があります。また、「抗疲労」成分の中には、「日本食品標準成分表」に掲載されていない成分も多く、「抗疲労版」の食品成分表が欲しいところです。3つ目は、「抗疲労食」という名目で食品を販売すると今の法律では「健康増進法」や「薬事法」に抵触する可能性があります。疲労は国民の約6割が訴える非常に訴求性の高い症状であり、その回復・予防は多くの国民の願いです。上記のような問題がクリアされ、「抗疲労食」が国民に貢献・還元される日が来ると考え、日々小さな成果を積み重ねている現状です。

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