水を介したカンピロバクター症:鶏肉以外のリスクについて考える(2024年2月12日)

地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所
中村 寛海



 カンピロバクター食中毒は、国内で発生する細菌性食中毒の中で20年以上にわたり事件数が最も多い。2012年に生食用牛レバーの提供が禁止されたことを受け2013年に事件数、患者数がともに減少、2016年にイベントでの大規模集団食中毒事例により一時的に患者数の増加がみられるものの、2009~2019年までは1年間に事件数200~400件、患者数1500~2500名程度で推移している(図1)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で2020、2021年の食中毒全体の事件数、患者数が大幅に減少し、カンピロバクター食中毒も同様に減少したものの、2022年には回復傾向がみられる(図1)。食品安全委員会の「食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~ 鶏肉等におけるCampylobacter jejuni /coli ~(2021改訂版)」によると、2017年4月1日から12月の間に発生し、原因施設が判明した事例のうち約9割(事件数として95%、患者数として88%)が「生又は加熱が不十分な鶏肉・鶏内臓の提供」と関連しており、カンピロバクター食中毒のほとんどが鶏の生食や加熱不十分な状態での喫食によるものであることがわかる。すなわち、カンピロバクター食中毒のリスクを回避するには鶏肉・鶏内臓を十分に加熱してから喫食することが最も肝要である。

 一方、2022年8月に患者数892人におよぶカンピロバクター症集団事例が発生したが、その原因は「流しそうめん」であり、流しそうめんを提供した店の湧き水からカンピロバクターが検出された。ここで、鶏肉以外のカンピロバクターのヒトへの感染経路について考えてみたいと思う。カンピロバクターのヒトへの感染経路を図2に示す。海外では鶏肉以外にも生乳による事例が多くみられる。日本では報告されていないが、米国では子犬などの愛玩動物による感染事例も報告されている。井戸水や湧き水などの環境水は件数は多くないものの、カンピロバクター症の原因としてわが国でも古くから事例が報告されている()。環境水への汚染経路は野生動物や家畜の排泄物と考えられる。海外でも井戸水や地下水によるカンピロバクター症事例が報告されている。また、長距離障害物アドベンチャーレースに参加し、競技中に転倒して泥地に顔がついたり、頭ごと水中に入ったりすることや、足元が悪い状態での長距離マウンテンバイクレースで泥水を顔にかぶったり、泥水を摂取したことが原因のカンピロバクター症事例も報告されている。これらのレースは牧場で開催されていたり、レース場近くでウマやニワトリを飼っていたことがわかっている。

 流しそうめんを提供した店の湧き水から検出されたカンピロバクターが何に由来するものかは明確にはされていないが、店側は事例発生の1ヶ月ほど前に線状降雨帯の影響による豪雨で土砂崩れが発生して塩素投入装置が被災し、急ぎ復旧させたが、例年営業開始前に行っていた水質検査を実施できていなかったとコメントしている(FNNプライムオンラインhttps://www.fnn.jp/articles/-/580819)。水を介したカンピロバクター症事例はそもそも塩素消毒がされていなかったり、あるいは大量の降雨などで塩素消毒が上手くいかなかったことが原因となることが多い。これらの防止には、定期的な水質検査と殺菌・消毒を実施し、適切に管理することが重要である。

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