Codex委員会の微生物リスク管理の数的指標(Metrics)の枠組み〈前編〉 (2019年4月21日)

豊福 肇


山口大学共同獣医学部 病態制御学講座 教授
豊福 肇

 コーデックス委員会は国際的な食品安全リスク管理機関であり、世界貿易機構(WTO)のSPS協定により、コーデックス委員会の規格等は食品の国際規格とされている。コーデックス委員会が策定した微生物リスク管理を行うための原則及びガイドライン(CAC/GL63-2007)の付属文書に、微生物リスク管理のための数的指標(Metrics)の考え方とそのための用語の定義が示されている。本稿では2回に分けて、1)微生物リスク管理のための数的指標、2)この考え方を取り入れて作成された生食用牛肉の微生物規格の設定の背景を説明する。

Part1微生物リスク管理のための数的指標(Metrics)

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 まず、数的指標について、定義と例示を示す。
ALOP(Appropriate Level of Protection)
その国が適切だと考える公衆衛生上の保護のレベル(例、患者発生頻度 ○人/人口10万人)国の公衆衛生上、受け入れざるを得ない疫学的な指標で、単位人口当たり患者、入院患者または死者といった数であらわされる。
Food Safety Objective(FSO)
ALOPを達成する喫食時の微生物汚染の菌数または汚染率。例えば喫食時の調理済食品中のListeria monocytogenesが100 cfu/gのようにあらわされる。
Performance Objective(PO)
FSOを達成するためのフードチェーン上流のどこかのポイントにおける微生物汚染の菌数または汚染率、例えば工場出荷時の調理済食品中のListeria monocytogenesが10 cfu/gのようにあらわされる。
Performance Criteria(PC)ある工程で必要なハザード低減の目標値:例 加熱で6 log低減、冷蔵保管中最大1 log の増加)
Process Criteria(PcC):Performance criteriaを達成するのに必要な管理のパラメータ:例 71.7℃、15秒、Coxiella burnettiを5 log低減するのに必要な温度と時間
Microbiological Criteria (MC, 微生物規格):リスク管理の数的指標(metric)で、フードチェーンのなかの特定のポイントにおける、微生物、毒素、代謝産物または病原性に関連したマーカー等の検査結果に基づき、食品、工程または食品安全コントロールシステムの出来(performance)の許容性を示唆するもの

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 食品事業者にALOPを示し、人口10万人当たりの患者をx人からY人に減少させるように指導しても、食品事業者にはピンとこないし、どうしたらいいかわからない。そこで公衆衛生上のターゲットを食品中の微生物的指標に変換させる必要が生じた。それで考え出されたのがFSOである。食中毒になるか否かは喫食時の摂取菌数によって決まるので、FSOは喫食時の食品中の病原微生物の菌数または汚染率となる。しかし、喫食時の菌数を検査することや管理することも難しい。そこで考えられたのがFSOを達成できる、フードチェーン上流における任意の段階における食品中の菌数または汚染率であるPOである。さらにPOが遵守されているか、MC(微生物規格)を設定して確認する。FSO, POは概念上のものであり、MCのようにサンプリングプランや検査法は規定されない。

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 加熱工程のPerformance Criteriaが食品中のある病原体5 log 低減とした際、それを達成するのに必要なパラメータ(例えば加熱温度と時間で63℃、10分がProcess Criteria(工程規格)になる。また 冷蔵保管中に食品中のある微生物の1週間の増殖を1 log/g未満に抑えるために必要な食品の条件(例えば食品のpHや水分活性)がProduct Criteriaとなる。

 原材料中のサルモネラ属菌の菌数が1 log cfu/g=10 cfu/gで、加熱工程のPerformance Criteriaが5 logの低減効果の場合、加熱直後の段階でのPOは-4 log cfu/gとなる。また、原材料の下処理中に二次汚染で1 log cfu/g増加することが見込まれる場合、加熱工程のPerformance Criteriaが6 logの低減効果の場合、加熱直後の段階でのPOは同じく-4 log cfu/gとなる。

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