リスクの伝道師、SFSSの山崎です。今回のブログでは、昨今頻繁に外食チェーンにおいて発生している、悪質な利用客による不衛生行為のSNS拡散について解説したいと思います。まずは、以下の記事をご一読いただきたい:
「数千万円単位の損害賠償請求は考えられる」
自らも飲食店経営、専門弁護士が語る不適切動画問題
産経ニュース 2023/2/20 11:56 浅野 英介
https://www.sankei.com/article/20230220-TUHG2X47BFGZFHZP2ML3HLHPHM/
大手回転寿司チェーンで起こった若者たちによる不衛生行為のSNS拡散に対して、損害賠償請求を求める民事訴訟や偽計業務妨害で刑事告訴するなど、強気の企業姿勢が話題となっているわけだが、相手が利用客ということで、本来このような事態にまで至らないほうがベターであろう。業界全体での再発防止のためにも必要な法的措置ということはわかるが、未成年でしかも客なのだからやり過ぎではと感じる市民もいるはずだ。
その意味でも、一部の利用客によるこういった不適切行為を予防することのほうが重要なので、防犯カメラをお店の天井などに設置するとともに、店の信用毀損につながるようなフードテロ行為は監視していますよ、と明確に掲示して、利用客にも知らせておく必要がありそうだ。
以前、加工食品メーカーの製造現場で、一部の従業員による意図的な農薬混入というフードテロ事件が起こった際にも、監視カメラを製造ラインの各所に設置するフードディフェンス体制が構築されたわけだが、監視カメラで撮影するだけではその場の犯罪行為を止めることができず、毒物が混入されたままの食品が出荷されてしまう危険性が残るし、従業員にとっても常時監視されていることが雇い主への不信感につながることもあるだろう。
だからこそ、監視カメラを回していること自体は「意図的なフードテロ行為がないこと」を証明するためのもので、万が一、商品への異物混入が起こった際に、むしろ従業員を守るために監視記録を残していると伝える必要があるということだ。それにより会社に対する妙な気持ちを起こす従業員も萎えてしまうので、フードテロの抑止力にもつながっているのだろう。
外食などの店舗においても、監視カメラの設置を利用客に知らせることで、ある程度の意図的なフードテロ行為を防止できそうだが、問題は当該利用客が何が「不衛生な行為」なのかよくわかっていない場合に、SNSでのエンゲージメント数をかせぎたいために、ジョークのつもりで行ったパーフォーマンス映像がお店の信用棄損につながることもあるだろう。
居酒屋などで酒に酔った利用客が不衛生な行為で盛り上がって、SNSに動画をあげたとしても、お店の監視カメラ映像をもとにフードテロの愉快犯として、後日摘発するのは難しそうだ。お酒をのんで楽しんでもらうサービス業なので、これを止めるには限界がありそうだが、少なくともテーブル上のお醤油をペロペロされたりした場合は、偽計業務妨害行為として現行犯でおさえて、SNS記事自体の削除を求めたいところだ。
そうなると、ただの監視カメラではなくAI機能により、フードテロ行為が起こったら、瞬時にアラームでお店側に知らせてくれるようなAIカメラが必要になるが、これはかなりの投資金額になり、一般の外食店舗では対応が難しそうだ。やはりまずは「監視カメラ作動中:フードテロ行為が発覚したら警察に通報します」などと掲示して、利用客が酔っぱらう前に知らせておくことが抑止力になるものと考える。
筆者が外食・中食などの食品事業者に対して、これら監視カメラの設置とその掲示によりフードディフェンスを構築して、悪意のある利用客のフードテロ行為を抑止するようお薦めしているのは、一部の利用客による冗談めいた不衛生パーフォーマンスのSNS記事だけが対象ではない。もっと質の悪い犯罪者が金属や虫などの異物をお店に持ち込み、お店が提供した食品に忍ばせてSNSにアップして店を脅迫することもありうるからだ。
この場合は、利用客が不適切な行為をしたというSNS映像がない分、お店の側の衛生管理に不備があったという映像だけがSNSに拡散されるので、食品事業者にとってはより深刻な事態だ。だからこそドラレコのように、店舗内の映像記録をきちんと残しておくとともに、監視カメラが常時作動していることを客側に知ってもらうことで、これら悪質なフードテロ行為をある程度未然に防止することができるし、万が一、異物混入事故が発生した場合にも、お客様もしくは従業員へのいらぬ疑いをはらすことにもつながるわけだ。
また食品事業者が普段から残しておく記録として、店舗内の毎日の清掃記録や防虫・防鼠対策において、必ず補足した異物(金属・ビニール・毛髪など)や昆虫・ネズミなどの生物を映像データと共に保管しておくことが重要となる。とくにいま、SNSにおいてコオロギなどの昆虫が叩かれるケースが多いため、「〇〇店の食品にコオロギが入っていた」などという写真をSNSにあげる愉快犯が出てくる可能性もある。その際には、同店舗や食品製造施設において、直近数か月にわたって同じ種類の昆虫が一度も補足されていなかった場合には、客が持ち込んだ疑いが高い証拠となるだろう。
逆に、もし直近数か月にわたって同店舗や製造施設において何度か補足されていた昆虫が異物として店舗で提供した食品よりみつかった場合には、店側での混入が疑われるため、お客様に対する迅速かつ丁寧な謝罪対応が必須となる。事業者において不祥事が起きたときには、迅速かつ誠実な情報開示+丁寧な謝罪が安心+信頼回復の唯一の道になるはずだ。
いずれにしても、防犯カメラを店舗内の天井に数か所設置することで、監視を強化しておけば、映像記録をもとに利用客との示談や交渉がスムーズに進むので、フードテロ行為によるSNS映像を迅速に削除できれば、世間を騒がすことも少なくなり、利用客も店舗側も最小限の痛みで決着するだろう。
以上、今回のブログでは、とくに外食などの食品事業者がフードテロを防止するためのフードディフェンス対策について解説しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(非会員は有料です)。なお、当日ご欠席でも事前参加登録をしておけば、後日、参加登録者とSFSS会員限定のアーカイブ動画が視聴可能ですので、参加登録をご検討ください:
◎SFSS食のリスクコミュニケーション・フォーラム2023(4回シリーズ、ハイブリッド開催)
第1回 4月23日(日)テーマ: 食中毒微生物のリスコミのあり方 開催案内
https://nposfss.com/schedule/risk_com_2023/
◎SFSS食の安全と安心フォーラム第24回(2/19、ハイブリッド)開催速報
『ヒトと地球の健康にどう取り組む?~食品の安全性/機能性/SDGs対応を議論する~』
https://nposfss.com/news/sfss_forum24/
【文責:山崎 毅 info@nposfss.com】