2023年4月から10月にかけて食のリスクコミュニケーションを テーマとしたフォーラムを4回シリーズで開催いたしました。
毎回80名~100名程のご参加があり、3人の専門家より、 それぞれのテーマに沿ったご講演をいただいた後、 パネルディスカッションではオンライン参加者からの ご質問に対して活発な意見交換がなされました。
◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2023
【テーマ】『消費者市民のリスクリテラシー向上につながるリスコミとは』
【開催日程】
第1回 2023年4月23日(日)13:00~17:30
第2回 2023年6月25日(日)13:00~17:30
第3回 2023年8月27日(日)13:00~17:30
第4回 2023年10月29日(日)13:00~17:30
【開催場所】東京大学農学部フードサイエンス棟中島董一郎記念ホール+オンライン会議(Zoom)ハイブリッド開催
【主 催】NPO法人食の安全と安心を科学する会(SFSS)
【後 援】消費者庁、東京大学大学院農学生命科学研究科
【賛助・協賛】キユーピー株式会社、旭松食品株式会社、カルビー株式会社、
株式会社セブンーイレブン・ジャパン、日清食品ホールディングス株式会社、
日本生活協同組合連合会、サラヤ株式会社、日本ハム株式会社、東海漬物株式会社
【参加費】3,000円/回、学生は1,000円/回
*SFSS会員、後援団体、協賛団体(口数次第)、メディア(取材の場合)は参加費無料
【プログラム】
13:00~13:50 『ウイルス性食中毒対策における検証や検査の意義』
野田 衛 (SFSS理事・麻布大学客員教授)
13:50~14:40 『細菌性食中毒をリスコミで減らすには』
岡田 由美子 (国立医薬品食品衛生研究所)
14:40~15:30 『アニサキスと身近にある危険な食品』
小暮 実 (SFSS理事・元中央区保健所)
15:30~15:50 休憩
15:50~17:00 パネルディスカッション
『食中毒微生物のリスコミのあり方』
パネリスト:上記講師3名、 進行:山崎 毅(SFSS理事長)
野田衛先生
岡田由美子先生
小暮実先生
*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:
➀野田 衛 (SFSS 理事・麻布大学客員教授)
『ウイルス性食中毒対策における検証や検査の意義』
食品取扱者の二次汚染を原因とするノロウイルス食中毒対策は、手洗い、トイレ等の消毒、汚染物処理、健康管理など、一般的衛生管理が基本です。これらの対策はマニュアル化され、画一的な方法で実施されていても、個人差が生まれやすく、その効果は必ずしも一様ではありません。また、新型コロナウイルスのパンデミックで PCR 検査や抗原検査が広く認知されたものの、その特徴が正しく理解されているとは言い難い状況です。本フォーラムでは、対策の検証と検査をキーワードとして、ノロウイルス食中毒対策を考えたいと思います。
<野田先生講演レジュメ>
➁岡田 由美子 (国立医薬品食品衛生研究所)
『細菌性食中毒発生をリスコミで減らすには』
食中毒菌にはカンピロバクターなど食品中で増殖しないもの、腸管出血性大腸菌など低菌量で発症するもの、ボツリヌス芽胞など通常の加熱工程では死滅しないもの等、食中毒三原則で防止困難な性質を持つものがあります。また、リステリアやエルシニアのように 4 ℃以下でも増殖するものもあります。特にリステリアでは非加熱喫食食品を介した感染が国際的に問題となっており、食品出荷時の初発菌数が極めて低い製品での食中毒発生が見られています。このような食中毒を防止 するには、製造工程での汚染防止に加え、食品の特性や消費者の購入後の行動を踏まえた消費期限等の設定、更には消費者が自らの感染リスクを低下させうる行動を選択するような情報提供が重要となります。
<岡田先生講演レジュメ>
➂小暮 実 (SFSS 理事・元中央区保健所)
『アニサキスと身近にある危険な食品』
コロナ渦で会食の機会が減ったため、食中毒事件数や患者数は減少しています。一方で、アニサキスによる事件数だけが増加しています。また、身近な食品の中にも、食べ方によっては、健康被害の可能性の高い食品が提供されています。食品衛生法改正により、食品事業者は危害要因を分析して食品を提供するようHACCPが制度化されましたが、食品のリスクを正しく理解して対応できるように、食品衛生監視員の立場からお話しさせて頂きます。
<小暮先生講演レジュメ>
【プログラム】
13:00~13:50 『トリチウムの生体影響について:科学的な視点から』
田内 広(茨城大学理学部教授)
13:50~14:40 『福島の処理水は「特別」なのか』
井内 千穂(フリージャーナリスト)
14:40~15:30 『処理水報道に見るメディアの分断を考える~記者はどこまで自由か』
小島 正美(元毎日新聞編集委員)
15:30~15:50 休憩
15:50~17:00 パネルディスカッション
『トリチウム処理水のリスコミのあり方』
パネリスト:上記講師3名、 進行:山崎 毅(SFSS理事長)
田内広先生
井内千穂先生
小島正美先生
*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:
➀田内 広 (茨城大学理学部教授)
『トリチウムの生体影響について:科学的な視点から』
2021 年に日本政府は、福島第一原子力発電所にたまり続ける「ALPS 処理水(トリチウム以外の放射性物質を規制レベル以下まで除去した水)」の海洋放出を決定しました。放出にあたっては、トリチウム水が規制濃度の40分の1になるまで ALPS 処理水を事前に希釈することになっており、現地でその施設整備が進む一方で、風評への懸念は解消できていません。風評の解消には社会学的・経済学的な対策が重要ですが、トリチウムの生体影響に関する科学的な理解も必要です。この講演では、学術論文として報告され、ある程度の検証を経た科学的な情報をもとに、トリチウムの生体影響について概説します。
<田内先生講演レジュメ>
➁井内 千穂 (フリージャーナリスト)
『福島の処理水は「特別」なのか』
処理水について、「科学的には安全とされても風評被害が懸念され、地元漁業者が猛反対」という報道が続くが故に、誤解と風評被害を招いている。多くの消費者は根拠の有無を判断する手立てが限られているからだ。まずは、かつて O157 食中毒事件や BSE 騒動の折に報道を受けて不安な感情のままに行動し、結果的に風評被害に加担していた消費者としての自分を“懺悔”したい。そして、震災後の福島の状況を自分の目で見て、地元の方々や福島を訪ねた若者たちと交流する中で自分の意識がどう変化したかを振り返り、科学的根拠を直接判断できなくともリスクを受けとめるための条件を考える。
<井内先生講演レジュメ>
➂小島 正美 (元毎日新聞編集委員)
『処理水報道に見るメディアの分断を考える~記者はどこまで自由か』
処理水の最大の懸念は「風評被害の発生」だと、どの主要新聞も書いている。しかし、風評被害を少しでも解消しようとする記者の意欲は記事からは伝わってこない。なぜだろうか。その背景には主要な新聞の分断がある。読売・産経の2社と朝日・毎日・東京・共同通信の4社は見解がはっきりと対立した形になっている。NHKは割と中立的だ。そのような実態を報道事例を通じて伝えたい。媒体ごとに見解が固定しているため、もはや「記者の自由」はないに等しい。読者に忖度する記事ではなく、記者自身がもっと自由に書ける言論空間をめざしたい。
<小島先生講演レジュメ>
【プログラム】
13:00~13:50『食品添加物の規格基準と課題』
脊黒 勝也(日本食品添加物協会 専務理事)
13:50~14:40『食品添加物はなぜ嫌われるのか-添加物を巡る過去・現在のリスク情報とその根拠』
畝山 智香子(国立医薬品食品衛生研究所)
14:40~15:30『食品添加物に関するリスコミの効果と課題』
大瀧 直子(SFSS理事)
15:30~15:50 休憩
15:50~17:00 パネルディスカッション
『食品添加物のリスコミのあり方』
パネリスト:上記講師3名、 進行:山崎 毅(SFSS理事長)
脊黒勝也先生
畝山智香子先生
大瀧直子先生
*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:
➀脊黒 勝也 (日本食品添加物協会 専務理事)
『食品添加物の規格基準と課題』
食品衛生法が昭和22年に施行され、食品添加物規制は明治時代に作られたネガティブリスト(危険で使えないもの)制から、安全が確認された使用可能なものを収載するポジティブリスト制に変わった。しかし、添加物リストに最初に収載された物質は、保存料、着色料などが主となり、他の多くの物質が対象外とされた。昭和30年、リスト対象外であった第二リン酸ソーダの不純物によるヒ素ミルク中毒事件が発生し、また、リスト収載物質のうち、幾つかの着色料などの安全性が疑われ、昭和40年代に消除された。消費者のなかにはこれらを記憶されている方もいらっしゃるため、本フォーラムでは、過去の事故・事件より学んだ添加物の法整備について紹介する。
<脊黒先生講演レジュメ>
➁畝山 智香子 (国立医薬品食品衛生研究所)
『食品添加物はなぜ嫌われるのか-添加物を巡る過去・現在のリスク情報とその根拠』
消費者に食品の安全性について心配していることは何かを尋ねる調査などで常に上位にあげられるのが食品添加物である。食品衛生に関する法律が整備されていなかった時代には食品への異物混入が多く健康被害も出ていて食品に何かを添加することが良くないことだとみなされてもしかたがなかったかもしれない。しかし現在ではリスク評価の仕組みが整備され、食品添加物は食品そのものよりも厳しく安全性を管理されるようになった。現在の食品添加物悪者論はマーケティングや娯楽としての食情報に起因する側面が大きいだろう。添加物を巡る最近の話題を例に、流通している情報と実際とを紹介したい。
<畝山先生講演レジュメ>
➂大瀧 直子 (SFSS理事)
『食品添加物に関するリスコミの効果と課題』
食品添加物は毎日の豊かな食生活に不可欠な存在であり、このため、そのリスク評価、およびリスク管理は十分になされています。それにもかかわらず、「食品添加物は、無用、不必要なものである」として、これを好意的に受け入れない消費者の方々をお見受けします。
食品添加物に対する消費者の受け止め方について、その理由、原因を考察して、食品のリスクの正しい理解が浸透するようなリスクコミュニケーションの在り方について皆様と一緒に考えたいと思います。
<大瀧先生講演レジュメ>
【プログラム】
13:00~13:50『セルフケアに上手に使うためのヒントと注意点』
宗林 さおり(SFSS理事・岐阜医療科学大学教授)
13:50~14:40『健康食品をめぐる報道』
大村 美香(朝日新聞くらし報道部記者)
14:40~15:30『機能性表示食品のリスクとベネフィット』
山﨑 毅(SFSS理事長)
15:30~15:50 休憩
15:50~17:00 パネルディスカッション
『健康食品のリスコミのあり方』
パネリスト:上記講師3名、特別ゲスト 畑中三応子氏(食文化研究家)
進行:山崎 毅(SFSS理事長)
宗林さおり先生
大村美香先生
山﨑毅理事長
*講演要旨ならびに講演レジュメは以下のとおりです:
➀宗林 さおり(SFSS理事・岐阜医療科学大学教授)
『セルフケアに上手に使うためのヒントと注意点』
機能性成分についていくつかのポイントがある。まずは医薬品にも使用されており、機能性が極めて高いもの。これらについて同じ表記となっているが量的多少を見ること。一方食事に+オンする機能性成分は一体どの程度が適量なのかの議論も始めなくてはいけない。 逆に注意点として、保健機能食品でなくその他の健康食品でも食薬区分によって身体作用が極めて大きいものがあることも知らないといけないし、その製品であっても肝機能障害等体調を崩した際の比較的早い対応の必要性についても議論したい。
<宗林先生講演レジュメ>
➁大村 美香(朝日新聞くらし報道部記者)
『健康食品をめぐる報道』
医薬品などと異なり、食品には身体への効果や効能の表示はできないが、例外的に「保健機能食品」だけが、健康への働き(機能性)を表示してよいとされている。保健機能食品には、特定保健用食品(トクホ)、栄養機能食品、機能性表示食品の3種類がある。しかし、制度の認知度は必ずしも高くなく、これ以外の「いわゆる健康食品」も含め、各種の違いを明確に認識している人は少数だ。国民の半分が健康食品を利用しているとも言われる中、なぜこのような現状なのか。健康食品をめぐるこれまでの報道を見ながら、考えてみたい。
<大村先生講演レジュメ>
➂山﨑 毅(SFSS理事長)
『機能性表示食品のリスクとベネフィット』
機能性表示食品は、食品事業者自らが機能性/安全性の科学的根拠情報を消費者庁に届け出て開示
し、消費者市民がその公開された科学文献情報等をもとに、商品の合理的選択を行う国の制度だ。本年 6月、消費者庁は機能性の科学的根拠が薄弱として、一部の届出企業に対して行政指導を行ったが、消費者市民が試してみたいと思う機能性食品のベネフィットは、どの程度の科学的エビデンスなら許容されるのか。あくまで毎日摂取する食品である限り、医薬品のように有効性が強いからこそ副作用も許容せざるをえない世界はなじまない。「食品の機能性には寛容に、安全性には厳しく」を基本として、機能性表示食品のリスクとベネフィットのバランスの重要性について議論したい。
<山﨑理事長講演レジュメ>
④パネルディスカッション 特別ゲスト:畑中三応子氏(食文化研究家)
(文責・写真記録:miruhana)