牛乳は冷蔵庫に入れたら絶対に安全か
-汚染菌の管理ポイント- (2020年1月26日)

株式会社 明治 研究本部 品質科学研究所

上門英明


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1.要冷蔵の牛乳は無菌ではない
 牛乳の細菌的な品質は、生乳(搾乳後、殺菌処理されていない乳)の細菌的品質の向上、および製造技術や低温管理技術の進歩によって向上したが、中身は無菌ではない。牧場から乳処理工場に搬入された生乳は、加熱処理後、容器に充填されて出荷されている。加熱処理の方法は、低温保持殺菌(LTLT法、63℃30分処理)、高温保持殺菌(HTST法、72℃15秒処理)、超高温処理(UHT法、120~150℃で1~3秒処理)があり、どの方法でも安全性に関わる病原菌は殺菌される。しかし、殺菌条件が緩くなるほど製品中に耐熱性菌が残る機会が高くなるため、殺菌後の低温管理が重要である。また、要冷蔵牛乳の製造ラインは無菌充填可能なラインとは異なり、加熱処理後に製造環境などから再汚染する場合がある。再汚染する菌は主に腐敗に関与する細菌が多く、特に10℃以下でも増える低温細菌が再汚染すると、低温下でも時間が経つと微生物が増殖して品質劣化を引き起こす(図)。製造工場では微生物が再汚染する機会をできるだけ最小にするように管理されており、工程検査によってその管理状態をチェックしている。製品(未開封)中に細菌が存在した場合でも菌数はかなり低いため、未開封の状態で低温保管されていれば表示期限内の品質は良好に維持されると考えられる。一方、家庭内でも身の回りに存在する菌が牛乳開封後に中身に混入する場合が考えられるため、家庭内での取り扱いと冷蔵保管には注意が必要である。

2.家庭内で牛乳中に汚染する機会はあるのか
 家庭内で牛乳中に汚染する経路としては、冷蔵庫やヒト由来が考えられる。冷蔵庫内の菌数は野菜室が高く、特に清掃をしていない場合は300個以上/100cm2も検出され、低温細菌も多く存在しているとの報告がある。夏場は、冷蔵庫の使用方法(ドアの開閉頻度や収納率が高いなど)によっては庫内温度が10℃以上になる場合がある。開封後、冷蔵庫で保管する間に菌が汚染する可能性も否定できない。また、手や口腔内には多くの細菌が存在する。汚れた手で牛乳パックを開封したり、容器に口をつけて飲むと、細菌が牛乳中に汚染する可能性がある。

3.牛乳パック開封後の取り扱いについて
 家庭内でも牛乳開封後に菌が中身に汚染する機会があり、さらに温度上昇の要因が重なると冷蔵庫で保管しても絶対に安全とは言えない。弊社で実施した2014年度全国牛乳消費者調査(1,248人)によると、牛乳を腐らした経験者(108人)の特徴として、ドアの開閉が多く、冷蔵庫の収納率が高いことが確認されている。また、冷蔵庫に入れておけば開封後でも賞味期限までは安心と考える消費者や、ストローや直接口をつけて飲用しているケースも見受けられた。開封後の微生物汚染は牛乳の取り扱いや保存方法によって左右されるが、消費者が保管温度と日数をどのように意識して消費するかは受け止め方や経験によりばらつきがある。そのため、開封後の飲用については、一般的には「開封後は賞味期限にかかわらず、早めにお召しあがりください」との表現での啓発にとどまっている。
 牛乳中の微生物の増殖性については増殖予測モデルによって精度よく評価ができるが、開封後の初期汚染菌数を1cfu/mlと仮定して腐敗レベルに達する予測時間から開封後の飲用期間を推定すると、10℃:2~3日間、7℃:4日間、4℃:7日間が目安と考えられた。
 現在でも牛乳の不適切な取り扱いや消費が理由と思われる腐敗・変敗事例が発生しているため、乳業界でも具体的な食育や啓発が必要と考える。

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