HACCPの考え方でノロウイルス食中毒の予防を (2018年7月26日)

野田 衛


麻布大学 客員教授
野田 衛

 腸炎ビブリオ、サルモネラなど多くの細菌性食中毒は、各種の行政施策などに基づく食品取り扱い業者の努力によりその発生は減少傾向にある。しかし、ノロウイルスによる食中毒は、未だ多く発生しており、その対策の効果は十分に得られていない。この最大の要因は、現在のノロウイルス食中毒事件は食品取扱者からの食品の二次汚染によって起こっており、従って、ノロウイルス対策は基本的に食品に対する制御ではなく、食品取扱者に求める対策であることがある。加熱による殺菌や異物混入などは、温度センサーや異物センサーによりほぼ完全に制御することができる。しかしながら、ノロウイルス食中毒予防に有効とされる手洗い、健康チェック、施設・トイレ等の清掃・消毒、嘔吐物の処理などは、すべて人が行うことであり、管理方法を決めても一律に実施することは容易ではない。「手洗い」では、手洗いのタイミングや方法、使用する消毒剤を決めていても効果は様々であることに加え、マニュアル通りにすべての従業員が実施している(できている)かはわからない。「健康管理」では、多少、おなかに違和感があったり、下痢気味であっても、勤務に就かなければならない場合もあり、正しく申告しているとは限らない。「使い捨て手袋の着用」では、着用前の手洗いが不十分であれば、手袋表面にウイルスが付着するリスクが高くなり、事実多くの大規模ノロウイルス食中毒事件では使い捨て手袋が着用されていた。「嘔吐物の処理」でも、厚生労働省や自治体が示している次亜塩素酸ナトリウムでの消毒の手順を必ずしもそのまま適応できる訳ではなく、不活化効果の低い方法で実施されている場合もみられる。すなわち、ノロウイルス予防対策のマニュアルを作成し、それを指示しているだけでは、真に有効に実施されているとは限らないのである。そのため、これらのノロウイルス予防対策が確実に実施されていることをなんらかの形で検証することが極めて重要となる。

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 2018年6月食品衛生法が改正された。その主な改正点にHACCPの制度化がある。HACCPは食品製造工程の原材料の受入れから製品の出荷までのすべての工程について発生が予測し得る危害要因を分析し、重要管理点を特定し、そのモニタリング手法を決定し、その結果の記録、逸脱時の改善処置等を予め文書化し、それに従って工程管理を行うものである。中小の食品事業者に対してはこのHACCPの考え方に基づいた衛生管理が求められることとなったが、このHACCPの考え方はノロウイルス対策にも極めて重要である。某大手事業所では、従業員の手洗いの徹底のため、手洗い場に設置したカメラで従業員の手洗いの様子をチェックし、また時々手洗い後のATP値を測定し、問題がある場合には手洗いの方法を指導している。この管理は一般的衛生管理の範疇に入るものであるが、HACCP7原則に照らしてみると、表のように、HACCPの考え方に準じたものとなっていることがわかる。すなわち、手指からのノロウイルスの汚染を危害としてとらえ(原則1)、手洗いの徹底をCCPとしてとらえ(原則2)、手洗いの状況をカメラでモニタリングし(原則4)、正しい手洗いが実施されていない場合や抜き打ち検査(原則6)でATP値が高値となった場合(原則3)には手洗いの指導を(原則5)を行う。ビデオやATP値は記録し、保存する(原則7)。このように、某事業所で実施している手洗いの管理は「HACCPの考え方に基づいた衛生管理」そのものである。HACCPの考え方はまさにノロウイルス対策において適応されるべき考え方であり、その徹底がノロウイルス食中毒予防のCCPであると思われる。

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