紅麹問題から見直すべき食品のリスク評価/リスク管理

“リスクの伝道師”SFSSの山崎です。本ブログではリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方について毎回議論をしておりますが、今回は、世の中を大きく騒がせている小林製薬の紅麹製品による健康被害の問題について、これまでSFSSで取り組んできた健康食品のリスコミ事例を含めて考察したいと思います。まずは、29日の小林製薬の記者会見等に関する報道を以下でご一読いただきたい:

◎小林製薬 紅麹問題「プベルル酸」健康被害の製品ロットで確認
 NHK NEWS WEB 2024年3月29日 19時28分

 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240329/k10014405791000.html

3月22日に小林製薬より健康被害報告が発表された際には、カビ毒の「シトリニン」が腎障害を起こすと聞いていたため、筆者もそれが原因かと思ったのだが、実際に最初の腎障害症例が小林製薬の紅麹サプリとの因果関係を疑った医師も、同じことを小林製薬に問い合わせたとのこと。しかし、もともとこの紅麹カビ糸状菌自体が「シトリニン」を産生しないものをグンゼさんが開発されたものだったとのことで、問題の起こったサプリの紅麹原料からも「シトリニン」がみつからなかったため、余計に製品と腎障害との因果関係がわからず、行政への報告や世間への公表が遅れたようだ。

結局、小林製薬の紅麹サプリによる健康被害は広がり、入院患者多数に加えて死亡者も報告される事態になり、国が介入することが決まった時点で、因果関係や毒性が不明の「プベルル酸」(青カビが生成するとの報告あり)が原因物質として疑わしい、と公表せざるを得ない状況に追い込まれた。本紅麹製品のリスクについて、いまだわからないことが多い中では、どこまでが安全とは言いづらいため、リスコミも非常に難しいと考えるが、大切なポイントを以下に3つあげたい:

1.機能性表示食品だけの問題ではない

機能性表示食品は、2015年に始まった規制改革会議により決定された制度で、国の審査がなく届出制なので、企業の裁量により機能性と安全性のエビデンスが担保されているものだ(届出された科学的根拠情報は、誰でも消費者庁ホームページにて閲覧可能)。その点で、もうひとつ機能性を謳うことが国により許可されているトクホ(特定保健用食品)が、国による審査(内閣府食品安全委員会がリスク評価)に合格しているのと比較すると、安全性が脆弱である=健康リスクが相対的に高い、というのは事実だ。

◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2023
 第4回(10/29) テーマ: 健康食品のリスコミのあり方
 開催速報 https://nposfss.com/news/riscom2023_04/

ただ、この国が機能性表示を許可している保健機能食品(トクホ・機能性表示食品・栄養機能食品)以外にも、「いわゆる健康食品」としてサプリメントを含む健康食品は市場に多数あり、おそらく紅麹を含むもので「コレステロールを下げる」などの機能性表示をしていないもの(紅麹なのでおそらく健康に良いだろうというイメージで売っている商品)もあるはずだ。

なので今回は、たまたま紅麹を含む機能性表示食品で健康被害が報告されたのだが、もし紅麹菌の製造工程に関するリスク管理に問題があったとすると、たとえばトクホで「紅麹茶」のような健康食品があったとしても、同じような事故が起こった可能性はあったのではないかと推測するところだ(内閣府食品安全委員会が、今回のような健康リスクを事前に察知して許可しなかった可能性はあるが・・)。保健機能食品以外の「いわゆる健康食品」(法律上は一般的な「食品」と同じ)でも機能性成分を濃縮したサプリがあるので、むしろもっと大きなリスクが存在した可能性もあるだろう。

ただし、今回健康被害を起こしている機能性表示食品には「悪玉コレステロールのLDLが下がる報告あり」との表示がされており、製薬会社が製造したサプリなので安心して毎日飲んでいた、ということにより使用者が増えて、健康被害が大きく広がったという側面はあるだろう。その点でトクホは国により安全性データが審査されることが、健康リスクをさげてくれることは間違いないところだ。

健康食品は天然物を濃縮したエキスなどミクスチャーを配合しているため、機能性関与成分だけでなく、それ以外の天然成分も多量に含まれてしまうリスクがあるし、サプリメント形状(カプセルや錠剤など)になると味や色がわからないことから、推奨された量以上に消費者が摂取してしまうリスクも、専門家から指摘されている。SFSSが主催の過去のフォーラムや徳島県で運営した講演会の情報も、以下でご参照いただきたい:

◎食のリスクコミュニケーション・フォーラム2020
 第2回『健康食品のリスコミ~天然成分のリスクは?~』(2020年8月30日)
 『新規食品成分の安全性確保について』
 ~畝山智香子(国立医薬品食品衛生研究所)

 <畝山先生講演レジュメ/PDF:423KB

<徳島県主催/消費者庁共催:食のリスコミ講演会(2023/3/12) 開催報告>
 令和4年度食の安全安心に向けたリスクコミュニケーション
 「ホントに安全?知りたい、健康食品のリスクってなんだろう」を開催しました
 
 https://anshin.pref.tokushima.jp/docs/2023042400018/
  *講演レジュメや公開ミニ講座の開催報告はpdfでご参照いただけます。
  *詳細はこちらより

なので、健康食品やサプリ全般にについては、とくに天然物が濃縮されることを考えると、よほど慎重にリスク評価・リスク管理がなされていないと危険ということは否めないが、紅麹を利用した発酵食品全般の製造品質管理についても注意が必要ということだろう。

2.原因物質のリスク評価データは全く判明していない

あと大切なことは、現時点で「プベルル酸」もしくはほかの不純物のうち、腎障害との因果関係も含めて、どういった毒性があるのかリスク評価が全くできていないということだ。たとえば、現時点では「プベルル酸」もしくはその異性体などについて、添加物や農薬のリスク評価で得られているNOAEL(最大無作用量)もTDI(耐用1日摂取量)もわかっていないので、どの成分をどのくらい摂取したらどんな毒性が発現するのかも不明だ。

国立医薬品衛生研究所が、小林製薬の問題となった紅麹原料から、疑わしい化学物質を網羅的に分析し、単離合成して、その構造からリスクの高そうなものを優先して原因物質の候補として、たとえば10個選抜する。次にハザード評価を他の研究機関(食品安全委員会?)に依頼し、実験動物での安全性試験によりNOAELならびに主な慢性毒性の症状が判明する。そこで腎障害が起こった物質が原因物質としてある程度特定されたら、NOAELをもとに許容できる1日摂取量が判明し、初めて厚労省/消費者庁において紅麹発酵食品もしくは紅麹原料の管理基準(規格基準)が設定できる、という流れになるのではないか(あくまで筆者想定)。

もしくは、青カビが原因であることが間違いないと判明するならば、青カビの汚染量に関して微生物学的な規格基準(CCP)を設定し、製造工程におけるHACCP対応で青カビの汚染を防止できる道があるのであれば、原因物質の毒性を時間をかけて追っかけるよりも早く、健康被害を阻止することができるかもしれない。

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3.いずれにしても健康食品のリスク評価/リスク管理が大事

今回は、小林製薬による紅麹菌の製造過程における品質管理が甘かったことによる健康被害の可能性が高いのだが、これを他山の石として、健康食品全般もしくは発酵食品のリスク評価/リスク管理を再度見直して、同様の健康被害を出さないための食品安全管理体制を構築していただきたいと切に願うところだ。

昨年12月に、ちょうど筆者が食品産業センターさんの月刊誌『明日の食品産業』(No.542)の巻頭言に「ひとこと:お客様・従業員・会社を守るリスク評価とは」と題して機能性食品成分のリスク評価/リスク管理を綿密に行うことの重要性を解説したところなので、ご一読いただきたい。また、日本食品科学工学会のシンポジウムにおいても、機能性表示食品のリスク評価の在り方について発表したので、こちらも参考としていただきたい:

〇山﨑 毅(2022)『機能性表示食品のリスクと安全性をどのように考えたら良いか』
 日本食品科学工学会第69回大会, シンポジウムC2『食による健康維持と安全性の確保』

 <講演要旨(PDF/179KB)> <講演レジュメ(PDF/3.17MB)

*月刊「食品と容器」4月号にも特別解説を寄稿したので追記する(2024/4/1):
〇山﨑 毅(2024) 食品と容器 Vol.65, No.4, p254-259.
『特別解説:機能性表示食品のリスクと安全・安心を考える

以上、今回のブログでは、紅麹問題を実例とした健康食品のリスク評価/リスク管理の重要性について議論しました。SFSSでは、食の安全・安心にかかわるリスクコミュニケーションのあり方を議論するイベントを継続的に開催しており、どなたでもご参加いただけます(非会員は有料です)。

◎SFSS食のリスクコミュニケーション・フォーラム2024(4/21、ハイブリッド開催)
 第1回テーマ:「ゲノム編集食品のリスコミのあり方」
 開催案内
 https://nposfss.com/schedule/risk_com_2024/

◎SFSS食の安全と安心フォーラム第26回(2/12、ハイブリッド開催)開催速報
  テーマ:消費者の安全・安心につながる食品表示とは
  https://nposfss.com/news/sfss_forum26/

                        【文責:山崎 毅 info@nposfss.com

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